第7話
食料の安定が少しずつ見えてきた頃、俺は新たな問題に直面していた。それは、衣類だ。この村の住民が着ている服は、どれも粗末で、あちこちが擦り切れている。特に冬が近づくにつれ、この薄い麻布だけでは寒さをしのげないだろう。
俺自身の服も例外ではなかった。転生時に身につけていた服は、すでにボロボロで、繕いようもないほど傷んでいた。このままでは、新しい服が必要になる。しかし、この村には、まともな服を作れる人間がいるのだろうか?
ある日、俺はミリアと一緒に村の小道を歩いていた。すると、一軒の小屋の入り口で、黙々と何か作業をしている少女の姿を見つけた。以前、俺が声をかけた途端、すぐに引っ込んでしまった少女だ。彼女の手元を見ると、布の切れ端と、骨で作られたらしい針を持っている。
「もしかして、裁縫ができるのか?」
俺が尋ねると、少女はびくりと肩を震わせ、顔を上げた。やはり、まだ警戒心が強いようだ。彼女の視線は、針を持つ細い指先から、俺のボロボロの服へと向けられた。
「少し、できる……」
か細い声で少女は答えた。その声は、消え入りそうに小さかったが、俺にとっては大きな希望の光だった。
「その布は、どうしたんだ?」
俺が尋ねると、少女は持っていた布切れを見せた。それは、使い古されたボロボロの服を、さらに細かく裂いたものだった。この世界では、新しい布を手に入れるのが難しいのだろう。
「あの、あなたの服……」
少女が、俺の破れたシャツを指差す。その目は、何かを言いたげに揺れていた。
「ああ、これな。もう限界でさ」
俺が苦笑すると、少女は少し顔を伏せた。
「直せる、かもしれない……」
その言葉に、俺は思わず前のめりになった。
「本当か?頼めるか!」
俺の強い口調に、少女は再び怯えたような表情を見せたが、すぐに意を決したように頷いた。
「うん……でも、糸が、少ししかないから……」
彼女は、ボロボロの木製の箱を開け、中から短い糸の切れ端をいくつか見せた。それだけでは、とてもではないが俺の服を繕うには足りない。
「分かった。糸の材料を探してくる。君の名前は?」
「……フィリア」
フィリア、というらしい。その名前を呼ぶと、彼女は少しだけ表情を和らげたように見えた。
俺はすぐに鑑定スキルを使い、糸になりそうな植物を探した。村の近くの湿地帯で、繊維質の強い植物を見つけ出す。「麻苧(まお)。加工すれば丈夫な糸になる」。鑑定結果が出た植物を大量に刈り取り、小屋に持ち帰った。
そして、簡易加工スキルだ。植物の繊維をどうやって糸にするのか、俺には全く知識がない。だが、鑑定スキルで示された素材と、「簡易加工:繊維の生成」という情報が頭に浮かんだ。試しに、刈り取った植物に意識を集中させると、みるみるうちに繊維がほぐれ、細い糸が絡み合って束になっていく。
俺はできたばかりの糸をフィリアに見せた。彼女は、目を大きく見開き、信じられないものを見るかのようにその糸に触れた。
「こんなに、きれいに……!」
その日から、フィリアは俺のために、そして村の娘たちのために、せっせと裁縫を始めた。俺が用意した麻苧を簡易加工で糸にし、それをフィリアが布に織り上げ、服を縫い上げる。フィリアの技術と俺のスキルが合わさることで、少しずつだが、村の娘たちの着るものが改善されていった。
最初は警戒していたフィリアも、作業を共にするうちに、少しずつ心を開いてくれるようになった。彼女の指先から生み出される、温かい布の感触。それは、飢えをしのぐ食料と同じくらい、この村の暮らしにとって大切なものだった。
「衣」の問題が解決に向かい、俺の頭の中には、次の課題が浮かび上がっていた。次は、水の問題だ。
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