夕暮れの誓い

魔法が地上の隅々に広まってから、世界は一変した。かつて「普通」であった世界は、今では奇跡と夢が交差する舞台となっている。 偉大なる魔法創造者・タカゲ・タクオ(高下 拓央)と、幼き日の約束を胸に秘める半エルフの女性・ライラは、丘の上で並び、ゆっくりと沈む夕日を見つめていた。


「ねえ……君は、未来に何を望む?」

拓央の小さな声が、夕暮れの静寂をそっと破る。彼は言葉を選ぶように、そっと問いかけた。


ライラは振り返り、銀色の髪が黄金色にきらめく夕陽を背にして微笑む。その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


「……きっと、子ども。」

その答えは静かで、しかし希望に満ちていた。


「こども……?」

拓央の胸が、驚きではなく、深く揺れ動く――その想いに触れる気配に。


「うん。子どもがいる家庭って、賑やかで温かいと思うの。笑い声や夢、愛に満ちた、そんな場所がほしい。私はママになりたい。そして、あなたがパパになってくれたら……」

夕陽に照らされるライラの頬が、そっと染まる。


拓央は黙って見つめるだけだった。言葉はいらなかった。その瞬間、心中の何かが確かに震え、夕陽と同じ色に染まった。


そして──胸の奥から蘇る幼い記憶。

大きな木の下、閑かな森の中で、悲しげに涙を流す一人の少年の姿。


「あのとき……やっと見つけた、拓央。」

ライラの声が切なく揺れる。目には光るものが宿り、過去の時間を捉えていた。


「ずっと探していた。心のどこかに残っていた、誰かを。朧げな記憶をたどっていくと、そこにいたのは──パンを分けてくれた、あの日の少年だった。」


拓央は震える唇を閉ざし、小さくうなずく。


「村の人たちは、あなたを悪魔と呼んでいた。でもその人たちは、本当の“悪魔”より恐ろしかった。」


ライラはそっと言葉を重ねながら、その瞳に浮かぶ涙を指でぬぐう。


拓央は黙って彼女を抱きしめ、髪を撫でた。温かい涙が、そっと彼女の髪を濡らしていった。


「僕を覚えていてくれて、そばにいてくれて、僕を“僕”として見てくれて……ありがとう。」


「そしてね……」。ライラは嗚咽を交え、かすかに笑った。「私をいつも癒してくれたのは、母親でも他の人でもないの。あなた、拓央だった。」


その夜、二人は星の光に包まれて眠り――消えかけた記憶が、静かに蘇っていった。

幼い彼らの約束は、今、ふたりの心に永遠に生きていた。

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