第16話 どこかの貴方へ(杉村)

<凛>

 僕が中2の時に姉は死んだ。校舎からの飛び降り自殺だったらしい。正直、びっくりはしたものの、寂しさは感じなかった。ずっと明るい笑顔を見せていた姉が自殺したということが、信じられなかった。

 とは言え、そんなに喋るわけでもなかったから、お通夜や葬式で顔も見たことのない人達が泣いているのを見ると、自然と涙は出なかった。冷たい奴だと言われて無性に腹が立った。両親は仕事を増やして僕は家で1人になることが多くなった。

 葬式から5日経った頃、僕は姉の部屋に入ってみることにした。こうすれば僕は泣けるかもしれないと思ったからだ。扉を開けて膝がすとんと落ちた。そこにはもう何もなかった。きっと見たくなかったから早々と片付けてしまったのだろう。僕は、ただ冷たくなり、姉の香りが消え去った部屋を見て、初めてわんわんと泣いた。もう背中をさすってくれる姉は居ないのだ。

<咲希>

 誰も居ない屋上。どこからか聞こえてくる声。私はただ退屈していた。屋上から身を乗り出してみても誰も騒がないのを見て、私は幽霊であると気がついた。自分の名前ですら覚えていない。

 屋上を歩き回っている時、屋上に続く扉の上にひとつのポーチがあった。そこには大量のラブレターがぎゅうぎゅうに入っていた。それは咲希という生徒が前川先生という人に書いている手紙の束だった。私は少しズキっとした。

 大の字になってゴロゴロしていると、屋上の鍵が開いた。私が近寄ると、可愛い女の子が出てきた。

「はじめまして。私は千夏」

「は、はじめまして…私はえーっと何だっけ」

「あなたは咲希。あなたとお話ししに来たの」

 そうか、私が咲希だったのか。何だか、前世は重い女だったんだな。

 ところで、千夏は私のことが見えていて、何ひとつ驚いていない。なんだか、この空気を前も感じた事がある気がした。

「ねぇ」

「何?」

「本当にはじめまして?」

 千夏はその瞬間、ぼろぼろと泣き出してしまった。私は無意識に、その背中をさすりながら泣いていた。

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アフタースクールライフ のりぬるのれん @norito0202

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