市川編
第9話 人助け
完璧人間。いつだって私はそこに向かう。誰に言われた訳でもない。ただ、頼られた時に幸せを感じ、生きている意味が見え隠れする。その瞬間、どれほど体がボロボロになっていても、全部消し飛んでしまう。ある意味私は、自己中心的な人間だと思っている。
「どうしたの?」
高校3年生。受験も控えた、人生において大事な時期。勉強は正直できてる方だと思う。きっと就職にも困らない。だって上手くやってきたから。
「前川先生が見つからない?ちょっとここで待っといて、私探してくるから」
今日も人助けをする。先生からの好感度はそこそこあると思う。というかあって欲しい。私は走り出す。あの先生は大体グラウンドに居る。居なかったら教室。だからとりあえず教室を巡る。全ての教室を一応見たけれど、どこにも居なかった。本命はグラウンド。階段を駆け下り、靴を履き替え、グラウンドへ行ってみる。そこにも先生は居なかった。体育倉庫、体育館、更衣室。あらゆる場所に行ってみたが、見つからなかった。もう一度戻ってみると、そこに私に助けを求めた人は居らず、私の鞄の上にメモがひとつ置いてあった。
「探して貰って申し訳ないけどこれ先生別に要らなかった。マジでごめん!」
メモだけでも残してくれるだけありがたいなと思う。これでメモも残して無かったら、きっとまた私は探しに行くだろう。時計を見ると、25分も経っていた。
「あ、市川」
後ろを振り返ると、
「いちいち助けてやんなくて良いよ。あいつお前が見つかんなくて困ってたから」
確かに。勝手に助けようとされて、30分近くもどこかに消えたら困る。
「うん。謝っとこうかな」
「あ、いや。謝らなくても…ねぇ。なんか謝るのはちょっと変だし」
それもそう。私は親が変わってたから、常識的な感覚があまり身につかなかったのだと思う。城崎君は優しいから、関わりづらくなった今でも、こうして話しかけてくれている。励ましてくれている。せっかくのこの機会を、無駄にしたくなくなった。
「一緒に帰る?部活多分今日無いよね」
「うん。さっきまで小テストしてたからさ。休んでた分の」
「どうだった?落ちた?」
「うぇ⁉︎なんで落ちた前提?ひど!」
「ずっと落ちてたし。で、どうだったんだい」
「ま、まぁ落ちたけど」
「間違えた数×5回書くんだっけ」
「うん。5分で終わる」
「じゃあ…良いのか」
「いいや?良くはない」
実際、小テストに落ちるような人が5回書くぐらいでは覚えられる訳もなく、このシステムははたして良いのか悪いのか微妙だなと思う。
「なぁ市川、カラオケ行かね?」
「え、行きたい」
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