15
見間違いかもしれないけど、槙江さんが弁当を食べながら一瞬泣いているように見えた。
でも泣いている理由を聞くのは野暮な気がして、気づかないふりをした。
槙江さんが喜んでくれているなら、それでいい。
弁当を食べ終えると、公園をそのまま一周して、駅前の大きな商業施設に入った。
槙江さんはあまり買い物を普段からしないようで、自分に似合う服もよくわからないと言っていた。
今日の格好は槙江さんによく似合っていると思うけど。
服や雑貨を見ても買うにまで至らなかった槙江さんが唯一興味を示したのがビーズショップだった。
そこは商品を買ってその場でビーズのアクセサリーを作れるスペースもあった。
「やってみます?」
「いいの?」
「もちろん」
数百種類あるビーズの中から槙江さんはかなり楽しそうに自分が好きなものを選んでいた。
ネックレスを作りたいようで、そのためのパーツも買っている。
テーブルに座って早速槙江さんは天糸にビーズを通し始めた。
小さなパーツをするすると通す細い指先を見て、手先が器用だと思った。
じっと見つめているとその視線に気づいた槙江さんが「やってみる?」と言って、俺にビーズを渡してきた。
言われるがままやってみるけど、いまいち手が器用に動かない。
目も霞んでよく見えない。
「難しいです」
「ふっ。なんでもできそうに見えるけど」
「どっちかというと努力型ですよ、俺」
「えー意外だ」
槙江さんはくすっと笑うと俺の手からパーツを取って再びネックレスを作り始めた。
そしていつもよりも楽しそうに話し始める。
「私ね昔から創作が好きで。図画工作とか小説とか、作曲もしたことあるよ。だからこういうのやるとハマっちゃうんだよ。たのしー」
ーー初めて、槙江さんが心の底から笑ったところを見た。
実際は、よく笑ってる人だけど、
どちらかというと“笑ってる”感じで“笑えた”のは初めてっていうか…今純粋に、槙江さんがこの瞬間を楽しんでくれていることがわかった。
手先が器用でも、人生を…あまり器用に楽しめていないんだこの人は。
そんなに難しく考えなくていいのに。
こんな風に1つ1つパーツに糸を通すように、少しずつ楽しめたのなら…それでいいと思うのに。
ビーズが完成した後、定休日だったこだまで夜ご飯を作って、サトリさんも呼んで3人で食べた。
槙江さんは本当に楽しかったようで珍しく酔っ払っていて、疲れもあったのか、そのまま店のソファーで眠ってしまった。
「この間のイケメンと槙江、いい感じなんでしょ?どうかな?結婚できる?」
食器を洗う俺に、サトリさんが楽しそうに話しかけてくる。
この人も今日は楽しかったようで顔が赤い。
「さあ、どうですかね」
「あたしはさ、晴澄と上手くいったらいいなってちょっと思ってたのよ」
「……いやないですよ。槙江さん年上が好きだって言ってましたし」
「そーんなの変わるかもしれないじゃない。今日の槙江、すごく楽しそうだったしねー。晴澄は?どうなのよ?」
「………」
ソファーで眠る槙江さんをカウンター越しに見つめる。
こうして一緒にいると、本当に槙江さんのどこがおかしいのか、心底不思議でしかない。
焦って結婚する必要も、恋愛をする必要もないんじゃないかって思えてくる。
別にいいじゃないか、そのままで。
そのままで充分……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます