13

その日はぐっすり眠れた。

晴澄に初めて送ってもらった時と同じ。

晴澄と話した後は、なぜかとてもすっきりしていて、安心感が生まれる。


でもまさか晴澄があそこまで義理堅いとは思わなかった。


数ヶ月前までほとんど話したことなかったとは思えないほど、晴澄という存在がすんなり自分の中に入ってくる。



頼っても…いいんだろうか。



その日は久しぶりに執筆が進んだ。

ご飯も食べれた。


しっかり寝て、しっかり仕事をして、しっかりご飯が食べられると人間はこんなに元気になれるんだと少し感動した。


ただそれだけのことで、ちょっと泣きそうになる。



何か特別なことを言ってもらったわけではないけれど夜中の晴澄との会話を何度も思い出す。

真剣な表情で話してくれた。


あんな風に人の悩みと向き合ってくれる人がいるんだ…。

お父さんとサトリさんへの恩返しだったとしても、嬉しかった。


頼りたい。

素直にそう思った。



そしてこの数日後、本当に晴澄と1日でかけることになった。


正直男の人と2人で1日出かけるのはほぼ初めてだ。

晴澄はどうなんだろう?

あの見た目と性格だし、女性経験は豊富そうだ。


きっと私よりお父さんやサトリさんの方が晴澄の恋愛歴は詳しそう。


一応デートだしと思いながら、最近全く着てなかったお気に入りの服を引っ張りだした。


大学入学のタイミングで買ったチェックのスカート。

普段は全く興味がないのに、本屋に行く時にたまたま見かけて初めて衝動買いで買った服だ。


勿体無いなんて思いながらほとんど着ないでいたけれど久々に履いて鏡を見ると思ったより似合わないことに気づいた。

好きなものが似合うとは限らないけど、このスカートに関してはなかなかいけてるって当時は思ってたのに。

今引っ張り出しても見ても服自体は本当に可愛い。


なのに似合わないのは…自分自身が変わったからだ。


体型も、多分顔も…。



結局色々な服を引っ張りだして着てみたけどどれも合わなく思えてそんなこんなしていたら待ち合わせの時間が近づいてきて、

とりあえずその中でもなんとか形になった服を選んで散らかしっぱなしのまま家を出た。


約束の5分前に待ち合わせ場所に着いたけど、すでに晴澄が待っているのが遠くから見えた。


こういう形で晴澄と会うのはもちろん初めてで、太陽の下の晴澄は離れていてもスタイルの良さがよくわかった。


今時のおしゃれな服装だけど清潔感もある。

まるでモデルのようなオーラに近くを通る女子たちがざわついている姿を漫画以外で初めて見た。



「おはよう。ごめんね待たせて」


「おはようございます。まだ約束の時間前ですよ」


「こっちの台詞だけど」


「じゃあ楽しみだったんで、早起きしちゃいました」


「ふっ、じゃあって何」


少し意地悪そうな顔でそう言われて、笑いながらも胸が高なった。

確信犯だ。


「今日体調はどうですか?」


「昨日休みだったから少しは寝れてる」


「まああまり無理せず、気軽に行きましょう。どこか行きたいところあります?」


「…私そもそもあまり外出歩かないからよくわからないけど…本屋には行きたいかも」


「じゃあ行きましょう、駅直結で本屋ありますよ」


今日は日曜日。

晴澄と待ち合わせたこの駅に来たのは初めてで、都心からは少し離れているのにとても栄えていて家族連れやカップルも多い。

ちょっとでも離れたら迷子になりそう。

変に背伸びして踵の高い靴とか履いてこなくてよかったな。


…そういえば晴澄は私より頭1つ分ぐらい背が高いけど、前に送ってくれた時も今も、私を置いていかずちゃんと歩幅を合わせてくれる。


すぐ隣からは少しだけ清潔感のある香水の香りがした。

きっといつもは飲食店で働いているからつけていないんだろうけど、なんだかそのいつもとは違う仕様が変に緊張感を煽る。

自分が汗臭くないかななんて気にしながら、この近い距離に、密着していなくてもなんとなく晴澄の体温を感じた。


男の人とのデートは…歩くたびに、ドキドキするものなのだと知った。


晴澄が案内してくれた本屋は私がいつも行く場所の何倍も大きくて興奮した。

どうしよう、ここだけで何時間でもいれそうだ。


「いろいろ見てもいいの?」


「どうぞ」


「あ、これ。欲しいやつ。買っていい?」


「ふっ、はや」


「だっていつもの本屋にないから」


晴澄が本好きかどうかは知らない。

でも私はまるで晴澄に解説するかのようにあの本はこうだ、この本はどうだと歩きながら無我夢中で話してしまった。

晴澄はそれを静かに聞いてくれた。


「あ」


そんな中で、自分の著書本を見つけた。

わりと目立つところに置いてくれていることがとても嬉しくて、まるで自分の子供に触れるかのように優しくその表紙に触れる。


「槙江さんの本?」


「うん。名前違うからわかんないよね」


「柊麻美…」


「1番最初の…ていうか本当のお母さんの名前」

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