第4章 ご神託!?スィーフィードの言葉。――前半
4-1 洞窟・竜の岩
「ここが……スィーフィードが作った祭壇……なのか?」
俺は正面の岩壁を見上げながら、思わず声を漏らした。
「確か、魔力を流し込むって言ってたわね。でも、どうやって?」
エルナーが周囲を見回す。
「リヒターの説明だと、たぶん二箇所から魔力を注ぐような回路があると思うんだけど……」
お袋がそう言いながら、慎重に手元の魔力の流れを探る。
――そして、岩壁の左右に、小さな“くぼみ”があるのを見つけた。
「……ここ、かしら?」
「分からないけれど、魔力を流し込んでみるしかないわね」
「お袋、エルナー。お願いしてもいいか?」
「分かったわ」
「ええ、せっかくここまで来たんだもの」
二人は左右に分かれ、くぼみにそっと手を添える。
目配せのあと、息を合わせて魔力を込め、同時に詠唱を始めた。――
---
ラルファ『光と闇が交わる始まりの
エルナー『時の彼方に
俺の手にあったソウルドラグナーが、ふっと光を帯びはじめる。
手を放すと、剣はそのままふわりと宙へと浮かび上がり、
まっすぐ、岩壁に刻まれた竜の
ラルファ『天地を
エルナー『今、この世界の
剣が浮かんだ位置に、さっき転移したときと同じ魔法陣が現れる。
その中心に、ソウルドラグナーがぴたりと吸い込まれ、まばゆい光を放ち始めた。
ラルファ『封印されし
エルナー『
剣は完全に光に包まれ、形を変えていく。
ただの“武器”ではない、“何か”へと
ラルファ&エルナー『神々の意志よ、今ここに
強い光がゆっくりと収まりはじめ、
そしてそれは――静かに床へと降り立った。
---
そこにあったのは、白く輝く一本の『牙』。
ソウルドラグナーは、ついに“本来の姿”を取り戻していた。
4-2 スィーフィードの牙は語る!創造の神の言葉!!
「これが……ソウルドラグナーの“元の姿”なのか……」
目の前にあるのは、白く輝く、一本の巨大な“牙”。
「……『スィーフィードの牙』……。まさか本当に、こうして目の前に現れるなんて」
お袋がぽつりと呟く。
「さすが創造の神。ものすごく神聖な輝きを感じるわ」
エルナーが静かにその光に手を伸ばし、目を細める。
……だが、ここからどうすればいい。
俺はそっと、牙へと手を伸ばす。
指先が触れた瞬間――
青白かった光が、さらに強く脈打つように輝き始めた。
――・・つ・・も・・・――
どこからともなく、いや――心の奥底から、言葉にならない“声”が流れ込んでくる。
――我が、力の一部を引き継ぐ者よ……
我は、
それは“声”ではない。
耳ではなく、頭の中から響いてくるのでもない。
もっと深いところ。
言葉にすらならない波が、意識の奥へと届いていく。
それでも、不思議と“意味”だけは、はっきりと理解できた。
周りを見ると――エルナーも、お袋も、同じものを感じ取っているようだった。
「スィーフィード様……」
エルナーが自然と片膝をつき、両手を胸元で重ね、祈るように目を伏せる。
神聖都市セグメントにおける“ご神体”――
その姫であるエルナーにとって、こうして祈りを捧げるのは、ごく自然な行為なのかもしれない。
――レフィガー・セルキナーよ
我はお前と共に“旅”をしてきた。――
――お前の思い、選び、歩んできた意志……
それらすべて、理解している。――
言葉は、ただ流れるだけではない。
俺たちの“内側”へと――記憶と感情の深層に、確かに触れてきている。
――まず、ソウルドラグナーと言われている剣――
――
――そして、お前はその力で、
この世界の“
「……俺は、“あいつ”がアークリークだとは知らなかったし……
ソウルドラグナーが“本物の牙”だなんて、知らなかった。
ただの偶然……それだけだ」
――それでも、結果として世界を守った。
それは、
――我が身も
アークリークの動向を見守っていた。――
「なるほど……“神魔戦争”以後も、神々の睨み合いは、今なお続いているのね」
お袋が、興味と警戒心の入り混じった眼差しで呟く。
――ラルファよ。その通りだ。――
――神々の
そして、その最中――今回の“事件”が、起きた。――
「……ラフィールによる、アークリークの召喚……」
エルナーの表情に、わずかに陰が差す。
その名が、この場所で改めて響くことに、何かざらつくような予感が伴っていた。
――その通りだ。
アークリークの一部が、この地へと召喚されてしまった――。
俺はスィーフィードに問いかける。
「スィーフィードよ、一つ聞きたい。
過去に……今回のような事件があったのか?」
――有るか無いかで言えば、“有る”。――
――最初は、我が戦った“神魔戦争”の時。
次は、およそ三千年前――魔族たちが行ったアークリーク召喚の儀式。――
――そして、今回で三度目となる。――
「神魔戦争より前から、アークリークも……あなたも存在していたの?」
お袋が少しだけ眉をひそめながら尋ねる。
――我らは“全て”を超越した存在。――
――常に在るようで――在らぬもの。――
――人間にとって、その認識は難しかろう……。――
エルナーが、少し表情を引き締めて問う。
「スィーフィード様、また同じような事件は……起こるのでしょうか?」
――それは、答えることができぬ。――
――ただし――“アレ”は召喚者だけの意思ではない。――
「それって、どういうこと?」
エルナーの問いに、お袋が静かに言葉を継ぐ。
「アークリークの召喚なんて、
よほどの……“奇跡”でも起きない限り、人間一人では到底たどり着けないでしょうね」
「じゃあ……誰がその研究を支えていたんだ?
一体、誰が“扉”を開こうとしていたんだ……?」
「結果的に召喚を成し遂げたのはラフィールでしょうけど……
背後に大きな組織があった可能性もあるわ。
あるいは、代々受け継がれてきた研究があったのかも。
それとも単に――偶然、“魔導書”を見つけてしまっただけなのか」
「ラフィールの家系は、ごく普通の農家だったわ。
親も魔導士でも研究者でもない。
才能が開花したのは学生時代。
その後すぐに宮廷魔導士になって、副魔導士長まで昇進した。
でも……ランブルクで、彼以外に“あの研究”を知る者は見つからなかったの」
「……つまり、世代を超えた計画や、背後組織の存在は……可能性が低い、ということか」
「そうなると……研究資料が一体どこにあったのかが、謎よね」
エルナーは目を伏せ、何かをたぐるように言葉を紡ぐ。
「……そういえば――ラフィールは、召喚術の詠唱に“魔族語”みたいな言葉を使っていたわ……。
まさか……!」
――エルナーよ。その予感は正しい。――
――“魔族が関わった何か”――彼は、それを見つけてしまったのだ。――
「魔族……。それって、“故意”なのか? それとも、“偶然”だったのか?」
――それは我にも明確には分からぬ。――
――ただ一つ言えるのは――“アークリークの召喚法”を知る魔族は、今も存在しているということだ。――
「スィーフィードよ……さっき言っていたわよね、三千年前にも魔族が召喚したって」
お袋は眉をひそめながらスィーフィードへと問いかける。
……お袋のこの一言が、まだこの世界の誰もしらない神話へと繋がっていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます