殻人界は世継ぎをお求め!

弧川ふき@ひのかみゆみ

第1章「日常が変わる感じ」

第1話 だから一緒にいる。そんな僕らの前に変な人が。

 いつも通りに帰路を歩いている。適度に雲のある昼の空が綺麗だなぁなんて思いながら。


 別の世界にもし日本があるなら、そこは四十七都道府県かもしれないけど、この世界の日本は四十八都道府県。そしてここは十州じっしゅうにある軟手やわて扉丘ひおか市北区。結構住み心地がいい。まあ、そんなのは誰がどこに住んでいても思うことかもしれないね。


 僕は、この日、高校の制服を着て学校にいた。今日は入学式の日。

 今日のやるべきことが一通り終わったあとの、帰路。

 大きな通りの歩道を歩いていたんだけど。


「なんだか慣れないね」


 ついポツリと出た。

 まだ寒い空の下で、横を見たら、見えたのは、幼馴染の女の子の顔。宇口うぐち蒼空そら。いい子なんだ。


「あたしは似たようなもんだけど、維都いとくんは新鮮」

「まるで野菜のよう」

「違っ」


 蒼空は、そう返して手を口の前に軽く広げて、控えめに笑った。

 そうしたら、そのあと、


「ふふ、確かにフレッシュな一年生だけど」


 って、輝かんばかりの笑顔を見せた。柔らかな光みたいな、いつまでも見ていたい顔だ。


 似たようなものっていうのは、きっと、つい先日まで彼女がセーラー服を着ていたからだ。着るものがブレザーに変わってもそこまで変化はないけど、僕の場合は学ランからの変化だからね。


「首が楽だよ、これ。襟が硬くないから」

「へえ~」


 大きく笑ってみせた。これは意識したけど、かなり自然だったようにも思える。だって、開放感が本当にあったしね。


 で。僕も言いたいことが浮かんだ。


「それにしても。同じ高校だったなんて」

「しかも同じ教室」

「そう。それもびっくり……そういうのって先生が決めるんだって言うよね」

「言うよね。友達ができなかった時の配慮?」

「おお、優しいね」

「大野菜仕入れ?」

「うーん、座布団は一枚」


 僕はそう評価してからすぐ、ついククッと笑い声を上げちゃった。

 ああ、楽しい。

 思い出すなぁ――どうしてこんなにも彼女を……好きなのか。


 ■■■■■■■■■■■■


 あれは僕が九歳の頃だったっけ。

 軟手やわて扉丘ひおか市南区から、とある化け物が逃げてきたっていう警報が響いた。ここ軟手県ではそんなことがよくある。

 その警報時、僕は、北区南部の小学校にいた。正確にはその学校の運動場に。


 南側の網を越えて入ってきたのは、魚頭ウオズっていう名前を持つ、熊のような大きさの、四足歩行動物。その体は鱗のような硬い皮で覆われていて、質感は象に近いんだ。で、当然、頭――首から先はあごの大きな魚のような感じ。


 それを見た時、初めは目を白黒とさせることしかできなかった。

 数秒後、ハッとしてからは振り返って、走った。


 でも、その足はもつれた。あの時はままならない気持ちだったんだ。

 半分後ろを向きながら、校舎から数メートルの所で、必死に起き上がろうとしたんだけど――

 大きな異界の猛獣は、そんな僕に向かって容赦なく突進してきた。

 で――


「やめて!」


 って言いながら、ホースを向けて水を噴射した人がいたんだ。それが、絵画に使う絵筆を洗っていた蒼空そらだった。

 その継続的な水やり攻撃のおかげで、僕は蒼空の近くまで逃げることができた。少しホッとはしたけど、危険なのは変わらないし、どうしようって焦ってた。


 そんなところへ、何者かがやって来て、魚頭ウオズを蹴飛ばした。はその一撃でこん倒させた。当時は、まだ色んなことを知らなくて、『そんな人もいるんだ、すごいな』ってことしか思えなかった。


 口をあんぐりと開けちゃった僕らふたりの前から、その髪の短い男がそそくさと、なぜか逃げるように、顔も見せずに去っていった。思えばあれは誰だったんだろう。


 それから十秒もしないうちに救助担当者みたいな人が現れた。

 実際そうだったみたい。

 間に合った異界生物対応担当の女性が、標的を網の中へと――


 ■■■■■■■■■■■■


 今でも――


「危ない!」


 暴走自転車が前から来ていて、気付いてなさげな蒼空を、手で制して守った。ふう、守れてよかった――そう思った僕は、今でも彼女を好いている。まあ、決意とかを全然話してはいないけど。


「あ、ありがとう」

「当然のことをしただけだよ」


 まあ、だって……ねえ? あんなことが昔にあったんだから。

 あれから、僕が守るんだって誓ったよ。あんな蒼空だからこそだ。





 また別の日。五時頃の家路。

 とある路地を歩いている時、目の前から、


「デスモセス様の邪魔はさせぬ」


 っていう声が耳に入った。男の声。

 黒でまとめたロックな服を着ている男。どちら様? しかも不穏な言葉……。


 僕は、言葉の意味が分からず、ぽかんとしてしまった。

 隣を見たら、蒼空もだった。

 目が合って、一緒に口を閉じたのは笑えそうだったけど――

 え? どういうこと?

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