第1章閑話 春休み期間

第1章閑話 その1 二人の味方

 俺たちの家が、最初に向かうところであった。


 さすがに、一夜明けた今の段階でマスコミが待ち構えていることは、考えたくないのだが……。




「怪しげな影は、今のところなし。とはいえ、油断はできないが」


「うん。前にもひどいことがあったからね」




 結希が顔をしかめる。


 家の敷地に入り込んでまで、取材を行おうとしたマスコミがいたのだ。




 車を降り、家に向かうと……影になっていたところから、人が飛び出してきた。


 更に動画スタッフまで揃っており、明らかな待ち伏せである。




「国営放送です。ヒーロー試験において、あるまじき行為を行ったとして非難されている久朗に対し、釈明を求めます」




「あいつ」のいた世界では、政府から独立した機関として存在していた組織。


 だがこちらでは、国が直接関与することで、人権を無視した取材が行われている。


 その横暴さは、クマサカによってより顕在化していると言えよう。




「そこの二人! 不法侵入の現行犯です! 直ちに退去しない場合、拘束することになりますよ!」


「ったく、やっぱりこいつらが張っていたか。災難だったな、久郎」




 そこに、助けがやってきた。


 一人は警察官、もう一人はマスコミ関係者だ。


 どちらも、俺と縁のある人物である。




「国家権力に、警察ごときが逆らうとでもいうのか!」


「警察の横暴、撮影して世間にばら撒いてやる!」




 横暴なのは、どちらだ!


 俺は警察官に、合図を送る。




「許可が出ました。これより拘束します!」




 手錠を使い、動画スタッフの方から拘束する。


 さすが警察官、手慣れたものだ。




「このことは、既に全国に報道されている! お前がクビになるのは、時間の問題だ!」


「残念だったな。報道は既に、止まっているよ」




 マスコミ関係者が、見下したように言い放つ。


 そこには、確かな根拠が存在していた。




「通信障害を発生させる、チャフと呼ばれるものだ。これが空中にある限り、お前たちの発する電波は届くことは無い」




 マスコミ関係者……言いにくいので、名前を述べることにする。


 彼の名は「平野ひらのたかし」。


 行政書士試験合格の際に、一番まともな記事を書いたことでコンタクトをとり、協力関係にある人物だ。


 自衛隊や他国の軍とも繋がりがあるらしく、そのためこのようなものを入手することができたようである。




 ちなみに、警察官の方は「みなもと頼孝よりたか」という。


 こちらの方は、最初はあまり良い出会いではなかったものの、今ではヒーローズネストと協力関係にある人物だ。




 この二人は、妙に気が合うらしい。


 俺たちの家にこいつらが張りついていることを知り、協力して撃退することにしたようだ。




 マイクを持っていた人物も、拘束される。


 まだわめいていたようだが、とりあえず危機は去ったと考えて良いだろう。




「どうせ、こいつらは恒河社の一員だろう。シズオカの法に従って、適切な対応を求む」


「はい! あまり内部のものと接触させないよう、厳重に隔離します!」




 悠治は通信を行い、パトカーを呼ぶ。


 比較的短時間で到着し、拘束した二人と共に悠治は去っていった。




「まあ、災難だったな。俺もあの試合は見ていたが、賛否両論って感じだ。ヒーローの資格を取り上げろという意見すら、上がっていたくらいだからな」




 賢治がこちらに語り掛ける。




「正直、助かった。あいつらは本当に、まともではないからな」




 被災地の取材前に、物資を買い占めるような連中だ。


 権力を濫用するこいつらは、俺にとっても敵だと断言できる存在である。




「まあ、チャフの代金がわりと言っては何だが……独占インタビュー、後日受けてくれるか?」


「俺としては、問題ない。もう一人の方は、許可が必要だが」




 俺たちの安全を確保するため、まだマイクロバスは止まっていた。


 舞と守の二人が降り、情報交換を行う。


 結果、俺と舞の二人で後日、インタビューを受けることとなった。




「ところで、これは記者としてのカンなのだが……久郎、お前昨日の夜、変な夢を見なかったか?」


「変な夢、だって?! ということはもしかして、賢治も?」


「あら。ということは、戦えるものだけがアルカナを手にしたというわけでは無さそうね」




 家の中に賢治を招き入れ、更なる情報交換が行われることとなった。


 ちなみにバスに乗っていた面々には、一度家に入ってもらい、リビングでくつろいでもらっている。


 両親は不在だったため、粗茶しか出せなかったのは残念なところだ。


 今のところ、数名を除いて大人しくしているようであるが……早めに済ませたほうが良いだろう。




「ってーと、お前たち全員がアルカナ持ち、というわけか。これはデカいな!」


「私にとっても、有益な情報です。二人のアルカナ持ちが判明したのですから」




 賢治の話によると、源裕司は「正義」のアルカナを。


 賢治自身は「法王」のアルカナを手にしたらしい。




「あれ? 僕のアルカナも、正義なんだけれども」




 結希が疑問を呈する。


 確かに朝、正義のアルカナであったことを聞いている。




「もしよろしければ、お二人とも詳細な検査を受けてはいかがでしょうか? 賢治さんには兄の会社で開発されている、最新技術についての情報でどうかしら?」


「そりゃあ、ありがたい。藤花の最新技術を記事にできるのなら、チャフの代金なんてはした金だ」




 どうやら、結希ともども詳しく調べる必要がありそうだ。


 舞の提案は、渡りに船という感じであろう。


 裕司の方は警察官ということもあり、金銭的な報酬は無理だろうが、藤花がバックにつくというだけでも、非常に大きな力になるはずだ。




 話がまとまり、俺たちを残してみんなが去っていく。


 ようやく家の中が静かになり、ホッとした。




「湯呑の片づけは、俺がやっておく。結希は少し、休んだ方がいいだろう」


「うん。さすがに疲れた~! 本当に、国営放送はろくでなしだね!」




 この状況で、家を空けるのは気分が悪い。


 両親が返ってくるまで、家にいることにしよう。


 幸いインスタントやレトルトもあるので、昼食はそれでいいだろうし。




 何より、このストレスは「ブレイブ&ウィッシュ」で発散したいところだ。


 いつもの時間とは異なるが、片付いたらプレイすることにしよう。

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