第1章 第21話 アパレルスタジオ N&S その1
マルダイを出た俺たちは、アオバ通りに沿って移動する。
ヨネノミヤ神社を過ぎたあたりに、大型の店舗が存在していた。
どうやらここが、目的地のようだ。
店舗は半分に分かれており、一方はアパレルショップ、もう一方はスタジオとなっているようである。
なお「あいつ」いわく、向こうの世界では服屋からネットカフェを経て、業務スーパーになっているところらしい。
「さて、行くわよ」
俺たちは舞に続き、店に入る。
そこはかなり、独特の雰囲気のお店であった。
入り口から会計をするところが、一直線に区切られている。
そのうち左側の方は、一般的な衣類が並んでいた。
手前の方に女性用、奥の方に男性用という形で区分けされており、分かりやすい。
デザインも非常に洗練されており、選ぶのが楽しみだ。
そして、右側はいわゆる「コスプレ衣装」のようなものが並んでいた。
種類が豊富で、驚かされる。
ロリータ系をまとめたコーナーでは、人形のような正統派からゴスロリ系、地雷系などさまざまな需要に対応できるよう、取り揃えられている。
こちらの方は一着ずつ用意されており、恐らく注文するための見本という位置づけであろう。
男性用も数は少ないが存在し、俺が知っている作品のものもある。
どのキャラがどこで着用していたのか、すぐに脳裏に浮かぶほどの完成度だ。
こちらのコーナーも、後で少しチェックしてみたいところである。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
店員の一人が、俺たちに声をかけて来た。
なお、制服は採用されていないようであり、店員はそれぞれ別の服を着ている。
この女性は少し、派手目の服であった。
こういう服は失敗すると、下品な印象を与えるのだが、彼女は完全に着こなしている。
恐らくこの店の、オーナーであろうと感じた。
「先日依頼した、藤花です。受け取りと、それぞれに合った服を二着、選んでいただけないでしょうか?」
舞が店員に、要望を告げる。
「かしこまりました。ご試着はなされますか?」
「ええ。その間に、この子たちの採寸をお願いするわね。とりあえず一着は既製品で、もう一着はオーダーメイドにしたいから」
それぞれに、二着!
まあ、あの巨大バグの報奨金であれば、十分賄える範疇であろう。
俺たちの方にも、協力者としてお金が入るはずだ。
一体どれだけの金額になるのか、非常に楽しみである。
「それでは、お客様方の採寸をさせていただきます。手分けして行いますので、どうぞこちらにいらしてください」
店員の指示に従い、俺たちは奥に向かう。
採寸、兼仕立て用の部屋が、扉の向こうに存在していた。
窓がない作りとなっていて、男女でスペースも分かれている。
「こんにちは。今回は……団体さんだね」
店員の一人が、こちらの方にやってきた。
少し前まで、裁断作業を行っていたようだ。
茶褐色の髪と目をしており、少しぼんやりとした表情であった。
「これだけの人数、手分けして頑張ります!」
もう一人、店員がこちらに来た。
こちらは黄色の髪に黒い目をした少女である。
顔立ちが少し日本人と異なるようで、東南アジア系のような雰囲気を受けた。
甘い香りが漂い、妙に惹かれる感覚がある。
「二人とも、しっかりお願いするわね。お得意様の紹介なのだから、いい仕事を期待しているわよ」
最初の店員が、二人に指示を出す。
やはり彼女が、この店の店長のようだ。
採寸が始まった。
腕の長さ、肩回り、胸部の厚みや胴回り、臀部の厚み、足の長さなどなど……。
きびきびとした仕草に、熟練と仕事に対する意識の高さを感じる。
「ヤナ。この人なのだけれども、あの服を着せてみたらどうかな?」
こちらを採寸していた、ぼんやりした少女がもう一方に問いかける。
どうやらエスニックな少女の名は、ヤナというようだ。
「あれね。キッチリ演技してもらえるのなら、最適ではないかしら」
ヤナと呼ばれた店員が、結希の採寸をしながら同意する。
ちなみに女性の方は、他の店員たちが採寸をしているようだ。
演技という単語に、疑問を感じるのだが。
「そうですね。よろしければ、女性の方々が服を選んでいる間に、お願いしたいことがございます」
店長自ら、俺たちに依頼する。
一体どのような要件なのだろうか?
「実は、ある衣装を着た上でスタジオを使い、モーションキャプチャーを行いたいと考えております。そのモデルとして、お二人を使いたいのですが」
「モデルになるのは良いが、一体何に使うというのだ?」
俺の疑問に対し、店長が答える。
「はい。
「もちろん知っているぞ。結希は?」
「当然、僕も!」
吸血鬼の王と、それに立ち向かう半吸血鬼の少女の戦いを描いた作品である。
この世界ではベストセラーとなっており、アニメ化もされたほどだ。
特に吸血鬼の王「アルカード」のカッコよさは、半端ではない。
そして原作の時から感じていたのだが、俺とそっくりな顔立ちをしているのだ。
そのコスプレ、非常に興味深い。
「え……ということは、僕はもしかして……」
そしてヒロインの「セイラ」もまた、非常に魅力的なキャラだ。
金髪碧眼の美少女で、体型の不利をカバーするために大剣を使用している。
髪の長さだけウィッグで整えれば、すぐ横にいる人物とそっくりなのもまた、特徴的だ。
「俺はやる気だが、結希は絶対に嫌だというのなら、無理をする必要は無いぞ」
「う~ん。女装は嫌だけれども、今回だけはやってみてもいいかな?」
珍しい。
普段女性扱いされるのを嫌う、結希とは思えない判断だ。
「だって、あの大剣でしょう? モーションキャプチャーをするにしても、カッコよく振り回せる女性、存在する?」
言われてみれば、確かに。
動きを再現するのだから、剣の心得がない素人では意味がないだろう。
ある意味、剣へのこだわりがコンプレックスを凌駕したと言えなくもない。
「分かった。その代わり、アルバイト代はしっかり払ってもらおう」
俺たちは、この依頼を受けることにした。
特に俺の方は、お金がいくらあっても足りないのだ。
もちろん、引き受けるからには全力を尽くして行うつもりである。
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