第1章 第16話 試合~久郎その2~

 もちろん、こちらもただ避けていただけではない。


 ウインドボールを撃ち落としながら、舞の方にも弾丸を放つ。


 捨て身の突撃が終了する間際には、ダーツも連射していた。




 しかし、そちらはすべて風のバリアで無効化された。


 防御魔法を維持しながら、高レベルな魔法を連続して行う。


 普通のヒーロー見習いであれば、ディサイプルで再現するのは不可能であろう。




「距離を詰められたまま、というのは少し怖いわね。『ブラスト・ウインド』!」




 至近距離のこの状態で、爆発系の魔法!?


 しかもこちらは、ダウンバーストをよけた直後であり、大きく体勢を崩している。




 仕方ない。相手の思惑に乗ることにしよう。


 直撃を受けながらも、あえて爆風に逆らわずに吹き飛ぶことで、ダメージの最小化を図る。


 今までの連続攻撃により、トルネードは消滅していたからこその選択だ。




 吹き飛びながら、舞の方に目を向ける。


 本来円形に爆発する魔法であるが、彼女は指向性を持たせることで、こちらだけを攻撃していたようだ。


 そのため自分は回避する必要がなく、魔力を溜める時間を確保したようである。


 緑色の光が、ナイフに集まっていくのが見えてしまった。




「これは避けられるかしら? 『ヒュージ・ウインドスラッシュ』!」




 これまた、嫌な単語が付け加えられていた。


 こちらを目がけて、巨大な空気の刃が迫る。


 掠るだけでも、ザックリ切り裂かれるだろう。




 ブースターを駆使することで、無理やり軌道上から機体をずらす。


 かなりの負荷がかかったのは、やむを得ない。


 幸いまだ、エネルギーの残量には余裕がある。




「避けてばかり、では意味がないからな。『エクステンドクロー』、発射!」




 腕部に搭載されているクローを、相手に向けて発射する。


 飛んでくる爪に危機感を覚えたのか、用意していた魔法を破棄した上で、防御の方に魔力を集中させる。


 直撃こそしたものの、バリアによってはじかれることとなった。


 これがきちんと相手に食い込んでいれば、圧倒的にこちらが有利になったのだが。


 だが、そこまでは予想の範疇である。




「ここからが、本領発揮だ!」




 クローには、非常に小型であるものの、ブースターが内蔵されている。


 それを発動させることで、クロー自体を操作することが可能となるのだ。


 クローから延びている、回収用のワイヤーを併用すれば……。




「捉えたぞ!」




 バリアはあくまでも、直接的なダメージを防ぐためのものである。


 そのため、ワイヤーが絡みつくことに対しては効果が薄かったようだ。


 舞の機体にワイヤーを巻き付け、動きを封じることに成功する。


 このチャンスを、逃すわけにはいかない。




「とどめだ! 『ビーク・ストライク』!」




 クローがついた腕部の反対側には、くちばし状のパーツが装着されている。


 普段は、簡易的な盾として利用することが多い。


 しかしこれは、尖った部分を相手に突き刺すのが、真の使い方だ。




 大振りになり、その間は盾として使用不能になるため、有効な状況は限られる。


 しかし、今回はほぼ理想的な状態としか言いようがない。


 背中のブースターをフルに発揮し、一気に舞に突撃する。


 この状況で避けることは、非常に難しいはず……であった。




「フィールド全開。『スラッシュ・バースト』!」




 自分を中心として、バリアの中に真空の刃を混ぜ込んだようだ。


 結果、ワイヤーはあっさり切り刻まれる。


 これにより、舞の機体は自由を取り戻した。


 ……そして目の前には、突撃体制に入っており、回避不能となっている俺。




「悪いけど、これで終わりね。『テンペスト』!」




 トルネードと比較しても、圧倒的な暴風の中に飛び込むこととなった。


 あっという間に、ボロボロに切り刻まれていく機体。


 特に脚部のダメージが酷く、自重を支えることすら困難となった。


 なすすべもないまま、俺は機体ごと地面に倒れ込む。




 瞬殺、とまでは言われないだろう。


 しかし、漣やみかんの相手のように、ほとんど何もできなかったと評されても仕方がない。


 相手の詠唱が早すぎて、こちらの読みをはるかに超えていたのが最大の理由だ。


 本当に同じ機体で、戦っているのだろうかと疑問を抱いてしまう。




「参ったな、これは。だが、まだできることはある!」




 片腕で上体を起こしつつ、必死に銃撃を行う。


 マガジンが空になるまで、打ち尽くした。


 しかし、バリアを貫通することはできない。


 ゆっくりと、舞のナイフに緑の光が満ちていく。




「おやすみなさい。『ダウンバースト』 !」




 動けない相手にとって、この魔法は最適であろう。


 腕で支えることもできないまま、機体が地面に押しつぶされそうになる。


 損壊率、損傷部位共に、致命的を示す赤色しか見当たらない。




 機体の電源が、落ちていく。


 メインカメラである眼部の光が、失われていった。




「決まりました! 勝者、冬花ま……」








 その瞬間を、待っていたのだ!




 “『スキルホールド』起動-――選択:『瞬間剛力』”




 俺は弾を打ち尽くしたほうの手を、地面につけて支えとする。


 ダウンバーストの時に、あえて逆らわないことにより、駆動系を活かしていた腕。


 そちらに装着されている銃は、まだ弾を打ち尽くしていない。


 腕力で無理やり機体を操作し、ありったけの弾丸を叩き込んだ。




 戦闘終了を確信していた、舞の機体に銃弾が直撃する。


 最初の一撃は、自動発動の緊急用バリアにより、阻まれたようだ。


 しかし残りの弾丸は、次々と機体に吸い込まれていく。


 致命傷を意味する、ブザーの音が大きく鳴り響いた。




 あまりの出来事に、観戦していた者たちの声が途切れる。


 舞自身、何が起こったのか分からないようで、呆然としていた。




「勝利条件を、満たしたぞ。……審判、判定を行え!」




 状況が明らかになるにつれ、激しいブーイングが観客席から巻き起こる。




 卑怯者! 反則野郎! 外道! などなど。


 バリエーション豊かな語彙に、ある意味感心してしまう。




 恐らく、結希以外は誰も俺が行ったことについて、理解できないだろう。


 これから何をやったのか、説明することにする。

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