第15話 戦鴉アンドラス
休息を終えた僕たちは第二十階層に上がることにした。
階段をあがるとそこは、円形闘技場であった。
目測ではあるが、ざっと円周で五十メートルと言ったところか。石畳の円形闘技場だ。
「小型のコロシアムね」
鷹城玲奈が僕と同じような感想をぼそりと漏らす。
「瞬様、梨香様お気をつけください」
アリエルが僕たちに注意を促す。
エリアマスターが出現するとみていいだろう。
アリエルの言葉のすぐ後、円形闘技場のほぼ中央にオレンジ色の魔法陣が出現する。
そのオレンジ色の光から何者かがあらわれる。
光が消えるとそこには大剣を両手に持った奇怪な女剣士が立っていた。その女剣士はグラマラスな体型をしている。胸元と股間部分だけを隠す鎧を着ていた。いわゆるビキニアーマーだ。
大きな胸に筋肉質な体型をしている。
特筆すべきはその頭部が鴉であるということだ。
鴉の頭をした女剣士はその虚ろな黒い瞳で僕たちを見ている。
背中には黒い羽根が生えていて、堕天使のようだ。
「戦争の悪魔アンドラス。この第と階層のエリアマスターです」
アリエルが鴉の女剣士を指さす。
「来るわ」
豹塚瑠璃が僕たちに注意を促す。
豹塚瑠璃の言葉のあと、鴉の女剣士アンドラスは闘技場の床を蹴った。
瞬時に僕たちに肉薄する。
両手に持つ大剣を振り上げ、豹塚瑠璃に斬りかかる。
アンドラスはニメートル近い体躯であるが、そのスピードは驚くほど早い。
僕たちとの距離は二十メートルほどあったのに一秒で接近して来た。
シュッと加速音が空気を切る。
豹塚瑠璃はスキル加速を使っている。
たしか音と同じスピードを出せると彼女は言っていた。
鴉の女剣士アンドラスが振り下ろした大剣は闘技場の石畳を粉砕する。
無言でアンドラスは振り向く。
そこには
アンドラスの反射速度はかなりのものだ。
音速の剣士である豹塚瑠璃に対応するのだから。
アンドラスは大剣をクロスさせ、刺突攻撃を繰り出す。
「
「
母さんと鷹城玲奈は同時に魔法を発動させる。
母さんが左側から、鷹城玲奈は右側から魔法攻撃を繰り出す。
バサリと羽ばたく音がする。
アンドラスは背中の羽根を丸めて自分を包む。
キイィンという金属音の後、二つの魔法は打ち消された。
あの鴉の羽根は魔法無効化の効果があるのか。
ということはあの羽からどうにかしないといけない。
「魔法がきかへん」
母さんが悔しそうな顔をしている。
鷹城玲奈が眼鏡の下のアーモンド型の瞳で僕を見る。
「広瀬川さん、あの鴉の羽がやっかいですね」
鷹城玲奈が小さくため息をする。
二人の魔法攻撃で一時は足を止めていたアンドラスは再び動きだす。
ここは一気に決めよう。
僕はカシナートの剣を両手で持ち、上段に構える。スキル特攻を発動させる。
体中に感じたことのない力がみなぎる。
心からは恐怖が一切消える。
僕は上段にかまえたまま、石畳を蹴る。
渾身の力でカシナートの剣を振り降ろす。
アンドラスはそれを大剣で受け止めようとする。
僕はそのアンドラスの大剣をカシナートの剣で打ち砕く。
二振りの大剣は根本から折れる。
僕は振り下ろしたカシナートの剣を下から上に向けて斬りつける。
まだ特攻の効果時間内だ。
カシナートの剣はアンドラスの腹部と右腕を切り裂いた。
ギィヤアアッ!!
それは人のものとも獣のものともつかない叫びであった。
この叫び声は聞きたくなきものだ。
殺人したことを思い知らされる。
それは明らかに異形のものであってもだ。
アンドラスは腹部から内臓をはみださせながら、折れた大剣を左手で持ち、僕に斬りかかる。
これはまずい。
特攻のスキルを使った後は回避率がかなり下がる。
それは両足がつてのように重いということが証明している。
あれだけの深手を負いながらもアンドラスの戦意は衰えない。
「こっちよ!!」
豹塚瑠璃がアンドラスの背後から叫ぶ。
抜刀術を使い、アンドラスの左羽を切り裂く。
グウアアッ!!
内臓に響くような悲鳴の後、アンドラスの羽が根本から落ちる。
黒い羽根が石畳に舞い散る。
「お母さま、今です」
すでに鷹城玲奈は
「
三本の
「
母さんは両手に
動きのにぶっている鴉の女剣士アンドラスに命中する。
アンドラスは炎に焼かれ、風に切り裂かれる。
黒焦げの傷だらけになり、アンドラスは石畳にうつ伏せに倒れる。
何度か痙攣したあと、アンドラスは動かなくなった。
特攻スキルの反動からようやく解放された僕は立ち上がる。鷹城玲奈が手をかしてくれた。
いつの間にかアンドラスの死体は羽根だけになっていた。アンドラスが流した血液だけは残っている。その血はどこか鉄臭かった。
羽根は勝手に動き、魔法陣を成形する。
黒い羽根からオレンジ色の光が発せられる。
「戦鴉アンドラスの討伐に成功しましたので第二の囚われの女神が解放されました」
アリエルが事務的に説明する。
アリエルの言葉のすぐ後、オレンジ色の光は消えた。代わりに現れたのはオレンジ色の髪をした女神であった。その瞳もオレンジ色をしている。
あのアンドラスが装備していたビキニアーマーと同じようななものを着用している。
アンドラスが豊かな胸をしていてのに対して、その女神はやや控えめであった。小ぶりだが形の良い胸をしている。そのスタイルはどこか陸上選手などのアスリートを連想させた。
「私は幻夢の女神レダ。アンドラスによって封印されていました。勇士の皆さま、貴方がたに感謝いたします」
その言葉のあと、女神レダは僕たちに微笑みかけた。
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