第9話 囚われの女神アルメリア

 エリアマスターの巨鹿ケルノスを倒したら、なんと紫の髪をした美しい女神が出現した。

 アリエルが言うにはその女神の名はアルメリアというらしい。


「えらい別嬪さんやな」

 母さんが見たままの感想を言う。


「囚われの女神とは?」

 鷹城玲奈がアリエルに問う。

 それは僕も聞きたいことであった。


「禁則事項の一つが解放されました。この塔には私たちの世界の女神が十柱封印されています。そのうちの一柱が花の女神アルメリアなのです」

 薄く目を閉じ、アリエルはそう言った。


「ということはアリエルちゃんは残りの女神様を解放してほしいっていうことかな」

 形の良い顎に指先を当て、豹塚瑠璃はアリエルに尋ねる。

 アリエルはこくりと頷く。

 アリエルの言葉を聞き、まるでゲームみたいだなと思った。まあダンジョン自体がゲーム要素があるけどね。そのゲームはまさに命がけだ。


「解放していただきありがとうございます。こちらを勇士の皆さまに差し上げましょう」

 すっと女神アルメリアは僕に手に乗せた巨鹿の角を差しだす。

 これは女神解放のクリア特典というものなのだろうか。

 僕がその巨鹿の角を受け取るとそれら瞬時に小さくなる。一メートルほどあった鋭利な角は手のひらサイズになる。

 持ち運びには便利なサイズになった。


「どれどれ」

 鷹城玲奈が僕の背後から巨鹿の角を覗き込む。

 うんっ、鷹城玲奈の爆乳が背中に当たっているぞ。ふむ、背中全体が爆乳に包まれて心地良い。

 なんだか元気になりそうだ。


「アイテム名はアルメリアの紋章。所有者はスキル模倣を宿すことができると。また植物を自在に操ることができる」

 鷹城玲奈は僕から離れて爆乳の前で腕を組む。

 うーん、ちょっと残念だな。


「スキルのコピーだなんてとんでもないものね」

 ずれてもない眼鏡をなおして、鷹城玲奈は言う。


「そんなアイテムがドロップされるなんてやっぱりこのダンジョン普通じゃないわ」

 今度は豹塚瑠璃が背中からアルメリアの紋章をのぞき込む。おっ豹塚瑠璃ってスレンダーに見えてけっこうおっぱいあるな。それにあんなに動いて汗をかいているのに、いい匂いがする。

 さらに元気になりそうだ。

「そうね、普通じゃないわね」

 鷹城玲奈が同意する。

 普通がどうか分からないが、二人が言うからそうなのだろう。


「また第一階層から第十階層への転移魔法陣も解放されました」

 アリエルが淡々と事務的に言う。

 ということはいちいち階層を上がってこなくていいということか。ショートカットできるのは良いな。


「瞬様、そのアルメリアの紋章を使えば一度の探索に一度だけ私を召喚できます。危地におちいったときは遠慮なくお呼び出しください。それでは皆さまがたのご武運をお祈りします。しばしのお別れでございます」

 女神アルメリアは深く頭を下げる。

 女神アルメリアの足元に紫色の魔法陣が刻まれる。

 女神は紫色の光に包まれて、何処かに消えてしまった。

 紫色の魔法陣だけが残った。


「こちらが第一階層につながる魔法陣になります」

 すっと右手のひらをその紫の魔法陣にアリエルは向ける。


「あたし、お腹すいたわ」

 母さんがお腹を押さえるオーバーリアクションをとる。

「そうね、お母さまに同意しますわ」

 鷹城玲奈がうんうんと頷く。

「ボクもお腹ペコペコだよ」

 そう言う豹塚瑠璃は母さんからチョコバーを受け取り、バリバリと食べている。


 たしかに皆の言う通り、お腹が空いた。それにけっこう疲れた。

 僕はズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。

 時刻は十四時を回っていた。

 この日の探索はここまでにして、家に帰ろう。


「よし、今日はここまでにしよう」

 僕が母さん、鷹城玲奈、豹塚瑠璃の順番に見る。

 彼女らはそれぞれに頷く。


「かしこまりました。その転移魔法陣に乗れば第一階層バベルの塔の入り口に戻れます」

 アリエルが浅く頭を下げる。


 僕たちはその紫の転移魔法陣に乗る。

 転移魔法陣で一緒に移動するには身体の何処かが触れ合っていないといけないということだ。

 鷹城玲奈が僕の右手を握る。どうして指の間に指を入れるんだ。

 豹塚瑠璃は僕の左腕に抱きつく。よく肉のつまったおっぱいに挟まれる。

 母さんは背中に抱きつき、僕の首に腕をまわす。背中に母さんのフワフワやわから巨乳があたる。

 駄目だ、実母なのに元気になりそうだ。

 それにしても三人とも密着しすぎではないか。

 僕たちは紫色の光に包まれた。

 眩しさから目が解放されると第一階層の塔の入り口に戻っていた。

 ふむ、便利だな。


「それでは次なる冒険に皆さまに幸あらんことを」

 アリエルは目閉じ、頭を下げる。

 僕たちはアリエルに別れを告げて、バベルの塔の外に出た。

 黒い鉄の扉は自動で閉じていく。


「じゃあ、あんたらも」

 僕が手を振り、鷹城玲奈と豹塚瑠璃に別れを告げる。

 家に戻り、母さんの手料理でも食べるか。

 神霊石の換金はあしたでも良いだろう。今日はかなりの収穫だ。これで僕も億単位の資産を手に入れたことになるな。

 もう会社員は辞めよう。

 冒険者に専念しよう。

 あれっ鷹城玲奈と豹塚瑠璃はなぜか帰らない。

 二人はお互いの顔を見て、クスクスと笑う。

「何を言っているのかしら広瀬川さん」

「お兄さん、冗談きついよ」

 二人はそれぞれに言う。

「瞬君、何言うてるのよ。玲奈ちゃんと瑠璃ちゃんも一緒に家に帰るんやよ。今日から二人も一緒に住むことになったねん。あたし、家族が増えたみたいでうれしいわ」

 母さんはにこにこと笑顔を浮かべる。

 いつの間にそんなことが決まったのだ。

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