第3話節約の第一歩

6億円の借金をしている。今の状況でどう動くべきか。

 とりあえず、この屋敷の経済状況を確認しなければどうしようもない。


 マフィンに「この屋敷のお金に関する書類を、過去1年分すべて出してくれ」と頼んだ。

 驚いたような顔をしていたが、すぐに何かを察したのか、てきぱきと倉庫へ入っていった。


 やがて並べられた書類は山のようだった。

 ――そりゃそうだ。この貴族の領地がどの程度かは知らないが、金の出入りは普通の家計簿とは比べ物にならない。


 だが、これで諦めるわけにはいかない。

 節約の基本は、出費と収入を把握することから始まる。

 まずは1から始めよう。


 ……しかし、計算機がない。

 どうしようか悩んでいると、ふと良い考えが浮かんだ。――そろばんを作ろう。


 電子機器は存在しないが、この世界でもそろばん程度なら作れるかもしれない。

 とりあえず設計図を書き出し、マフィンに相談してみる。


 すると「鍛冶屋のカヌレという男なら作れるかもしれません」と言う。

 そこでカヌレのもとへ向かうと、いかにも職人らしい筋骨隆々のおっさんが出てきた。


「あの、これ作ってほしいんだけど」

 設計図を渡すと、彼はひと目でそれを見て言った。

「これなら作れるな」


 そして、なんと三十分もしないうちに一つ完成させてしまった。

「何か問題があったら言ってくれ」

「ありがとう。本当に助かる」

「お嬢さんが来るのは久しぶりだからな。張り切っちまったよ」


 どうやら、昔の自分はここによく来ていたらしい。


 さっそくそろばんを使い、計算を始める。

 ――やはり格段に早い。

 どんどん処理が進むが、それでも終わる気がしない。


 横から覗き込んでいたマフィンが声をかけてきた。

「その……私もお手伝いさせていただくことは可能でしょうか?」

「可能も何も、やってくれれば助かるけど……そろばんの使い方、わからないでしょ?」

「いいえ。お嬢様が使っているのを横から見ていましたので、大体は理解しました」


 ――なんだ、ただの天才か。

「お願いするよ」


 カヌレにもう一つそろばんを作ってもらい、二人で作業に取りかかる。

 マフィンの計算速度はみるみる上がり、書類の山が目に見えて減っていく。


 ――やはり、人手は重要だ。


 さすがに目が疲れてきた頃、マフィンも同じように息をついていた。

「そろそろ休憩しようか」

「そうですね。お嬢様、シェフに何か作らせましょう」


 メイドが皿を運んでくる。

 パンとレタスのような野菜、そしてベーコンの香ばしい匂い。

 作業中の食事にはぴったりだ。


 空が夜に染まり始めた頃ようやく作業は終わった。


ようやく作業を終えた俺は、倒れるようにベッドに沈み込んだ。

 やっと、第一歩を踏み出せた――。

 まだまだ道は長そうだ。



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