第5話 魔王、オムライスに”預言”を見る

--再び現る、”カツカレーの聖地”


〜魔界・王宮〜


「……オムライスなるものが……我を呼んでいるのだ……」


玉座にて呟く魔王ヴァルセルグ。視線の先には、前回の「キッチン・サワダ」のレシートが額縁入りで飾られている。


「おやめください陛下!!もうそれ”聖遺物”扱いじゃないですか!!」


ツッコむのはベリル参謀。彼女はヴァルセルグの暴走を止めるため、朝から書状を片手に突撃してきた。


「今からまた人間界に……まさか、このレシートに書かれている”サワダ”に?」


「む?ああ、あの地はすでに我が舌に刻まれておる。だが……本日は”オムライス”で我を導くのだ!!」


「カツカレーの次は卵かぁぁ!!!」


そこに現れたカール大臣が、キラキラした目で手をあげる。


「参謀、正直ちょっと行きたくない?オムライスっていう料理は、ふわとろ卵に包まれた赤いチキンライス、そしてその卵の上に書かれたケチャップ文字……」


「カール大臣、あなたほぼそれ堕ちてるわよ……」


「行くぞ、我が忠臣たち!サワダに!」


「誰がそんな熱量で”喫茶店”に向かうのよ!!」




〜人間界・商店街〜


「ふ……懐かしいな……この空気……」


ヴァルセルグは街の空気を深く吸い込み、軽く目を閉じた。


「ここは……”かつて我がカツカレーと一体化した聖地”…」


「宗教染みてるの魔王様だけですからね!!」


その横で、カールとベリルが周囲を見渡している。


「ここが……”キッチン・サワダ”……オムが棲むという、幻の大地……!!!」


「なにそのファンタジー調!?」


「うん、初めて来たはずなのに……胃袋が”ただいま”って言ってるんだよね……!!」


「もはや”おかわり欲”が人格乗っ取ってるじゃん!!」



そこへ現れたのは、制服姿のほのか。袋を抱えてこちらに歩いてきた。


「あー……あんたたち、また来たの?」


「再び訪れし者たちに祝福を」


「いやほんと何なのこの人たち!!」



〜キッチン・サワダ〜


レトロで落ち着いた店内。魔王は堂々と扉をくぐる。


「ああ……変わらぬこの香り……カレーの霊がまだ漂っておる」


「いや今日はオムライスだからね!?」


店員がニッコリと迎える。


「あら、また来てくださったんですね。魔王さん。今日は何になさいますか?」


「オムライスを三つ。全力で、だ」


「了解、全力オムライス三丁!!」


カールはキョロキョロ店内を見渡しながら、メニュー表を食い入るように見る。


「すごい…全部の料理に、魂がある……!!これは魔界にも持ち帰りたい…!」


「無理無理。衛生法と輸送の壁越えられないから!」


ベリルは腕を組んでやや引き気味。


「……喫茶店で全力オムライスって注文の仕方、初めて見たわ……」


しばらくテーブルでワイワイとしている三人のもとに、店員の「お待たせしました〜」の声。運ばれてきたのは、ふるふると震える黄金のドーム。とろける卵の上には、ケチャップで書かれた文字が--


<頑張ってるね♡>


「これは……我に向けられし、言葉か……?」


「ちがうっつってんでしょ!!!」


ヴァルセルグは静かにスプーンを手に取り、割る。

ふわぁ……と湯気が上がり、鮮やかなライスが広がる。


「この瞬間……人は、幸福に包まれる……」


「陛下、だいぶ語彙が幸せ寄りになってきましたね……!」


カールも一口。


「うわっ…卵が…喋ってる…!!いや、喋ってはないけども!!」


「自分で言い直したの初めて見た」


ベリルもついにスプーンを動かす。


「……ふむ、確かにこれは……卵とケチャップの戦略同盟……酸味と甘みの計算された……」


ぱくっ。


「……うまっ」


「認めた!!」




「……”がんばってるね”か……ふふ……」


魔王は皿を見つめながらつぶやく。


「この一言に……支えられるとは思わなかった……」


「何それ、もうケチャップで泣ける男じゃん!!」


カールは満足そうにゲップしながらつぶやく。


「陛下……日本は胃袋の桃源郷ですな……」


ベリルは頭を抱えている。


「この調子じゃ次は……ナポリタンとかチーズハンバーグとかって言い出すんじゃないかしら……胃袋無限なんじゃないの……」



帰り際、ほのかが一言。


「今度、甘い系行ってみたら?パンケーキとか、クレープとか」


「ぬぅ……それは、この間の”パフェ”とやらとはまた違う、未知なる分野……甘の系譜……」


「陛下、血糖値が未知数になりますよ……!」


その日、サワダのキッチンに”ふわとろの風”が再び吹いた--。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る