第23話 困難も君がいれば容易
─某日。雨が降しきる裏側の世界。
玲たちはバグを探すためにパトカーに乗り込む。
しかし今日はいつもと違う。その空間にいるのは玲と創だけだ。出発前、柳は二人に言った。「そろそろ二人で行ってこい、ディテクトからサポートしてやる。」と。
「…なぁ、玲。俺ペーパードライバーなんだよな。」
「…僕は免許ないから創に任せるしかないけど今の発言ですごく降りたくなったよ…」
不安そうな玲を気にすることもなく蛇行運転を繰り返す。揺れる車体に顔をしかめ「バグではなく創に殺されるのでは…」と内心強く思ってしまう。
突然ディテクトから柳の声が聞こえ、緊張が舞う車内。玲は耳を済ませてディテクトに耳を傾ける。
「…き…ろ…!う…だ!」
「…なんだろう…電波が悪いな…」
ディテクトから流れるのは不安定な柳の声。何を言っているのか聞き取れずに創を見て首を傾げる。
創も聞き取れないのか肩をすくめ、再び運転に集中する。プツリと途切れる通話。画面に送信されたメッセージを確認した玲の顔がみるみるうちに青ざめていく。
「そ、創!すぐ後ろの電波塔にバグがいるって…!」
「う、後ろ…!?って!!うおっ!!」
リアウインドウが大きな音を立ててひび割れる。
突然の衝撃に必死にハンドルを切りながら創はバッグミラーを確認し悲鳴をあげる。
「バグ!車の上にバグが乗ってるじゃねぇか!どうすんだよ!」
玲は窓を開け、その隙間からバグ目掛けて弾丸を解き放つ。比較的小さいバグだが力は強い。車体にへばりついたまま離れずに玲を威嚇する。
言葉にならない言葉を叫びながらバグは一心不乱で玲を攻撃しようと飛びかかる。
パニックになる二人。再びディテクトから柳の声が耳に入り込む。
「落ち着け。そのままの気持ちで突っ走ると事故るぞ。まずは……ろ。」
切れ切れの会話が無音になり、絶望が二人を襲う。
いつの間にか車体から電波塔に移動していたバグはアンテナを破壊しようとしているのか激しく揺すっている。だから電波が悪かったのか…そう思った玲は窓から身を乗り出し拳銃構える。
「創。僕が攻撃するから運転お願い。」
戸惑いながらも頷きアクセル全開で加速する。
左右にゆらゆらし、振り落とされそうになりながらもバグから視線を外さず発砲し続ける。
バグは弾丸を受けながらも執念に二人を追いかけ咆哮している。しかし創の蛇行運転がここで役に立つとは思わなかった。動きが定まらない車の動きにバグは車体に乗り移ることが出来ない。バグはバランスを崩したのか地面に叩きつけられ怯んでいた。その隙に玲は「今のうちだ」というようにあらゆる場所を狙い撃つ。そうしているうちに点滅する項。二人は車を停め、項に銃口を向ける。
「よし、項を狙おう。」
二人のコンビネーションは完璧だった。
あろうことか二人だけでバグをシャットダウンすることに成功したのだ。
消えていくバグを見つめながら二人はほっとため息をつく。
無事に帰還した一同。柳は二人を見て満足そうに微笑みながら近づいてくる。
「ご苦労だった、二人とも。思わぬトラブルがあったがよく切り抜けたな。完璧だったぞ。」
「うんうん。私たちが来た当初より上手だったよね〜渚。」
「まぁ…認めたくないけど認めざるを得ないな、これは。あの下手くそな運転が役に立つなんて。」
「………懐かしいな。蚕は勇敢だったけど渚は泣いてたの覚えてる…」
深月の言葉に渚は顔を真っ赤に染め歯を食いしばる。プライドが高いのか、知られたくなかったのか、逃げる深月を鬼の形相で追いかけながら署内に消えていく。呆れたように首を振る夕陽は玲と創に視線を移し軽く拍手する。
「君たち本当に素晴らしかったよ。無事で何よりだ。」
褒め言葉に照れ笑いしながら二人は頭を下げる。
どうなる事かと思っていたが生還できた事実に心の緊張がゆっくり溶けていく。柳たちが去り、静かな空間が二人を迎える。
「…俺たち…やれば出来るな?」
「…うん。でも油断しちゃダメだ。今回は運が良かっただけかもしれない。いつでも僕らは死と隣り合わせだから気を抜いたら終わりだよ。」
「あーもう。お前はまじで真面目すぎるな。今は勝ったんだから喜びゃいいんだよ。この先のことなんてわかってるって。"今"を喜べよ。今を。それより初めて二人だけで倒した記念に食堂で一番高いもん食おうぜ。うわ、贅沢〜。早く行くぞ。」
返事を待たずに鼻歌を歌いながら玲を食堂に誘導する。またこうして食事が出来ることは二人にとって素晴らしく、そして生きがいでもある。
知らず知らずのうちに二人はお互いにいなければならない存在になっているのかもしれない最高のパートナーと言えるだろう。
エラー解除。 おこげ。 @okg_kg
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