第5話 強くなるには。
「…でもそのエラーって…どうやって解除するんですか…バグはどうやって…」
創は顎に手を当て、不安げに柳を見つめる。
そんな創の肩を組みながら柳はゆっくり口を開いた。
「前にも言った通り、エラーは雨の日に起こるんだ。水たまりを通じてこの街の裏側にいける。そしてそこに現れるバグ達を倒すんだ。制限時間内にな。」
「制限時間…そんなのもあるんすね…ってかなんで水たまり…?」
「俺も詳しくは知らないが…おそらく水たまりの反射から裏側に繋がっているんだろうな。全く同じ街だがその街にはエラーが起きている。しかしこのことは警察官しか知らない。街の人には存在してない時間なんだ。」
「…うん。全然理解できません!」
創の元気な声が空間に響く。自信満々に言うことでは無いだろうと玲は小さなため息をつきながら軽く創の足を蹴ると創は小さな悲鳴をあげながら玲を睨む。そんな二人を見ながら柳は顔をしかめ、やれやれと言った感じに頭を振る。柳が咳払いをすると二人は焦ったように姿勢を正して柳の言葉に集中する。
「とにかく実戦しないとわからないだろう。天気予報を見る限り次の雨は…1週間後…だな。それまで君たちには訓練してほしいんだ。」
「訓練…ですか?」
お互いの顔を見合いながら二人の声が重なる。
その声には困惑が混じり、どういうことだ。と首を傾げる。
「いきなり戦場に放り出すわけがないだろ?地下室にある訓練所で銃の撃ち方を学んでくれ。銃が撃てないようじゃ何もできないからな。…おい!シン!どこだ!」
柳が叫ぶとドアの影からひょっこりと男性が覗く。ガムを食べているのか口を動かしながら眠そうな顔で柳を見つめる。しかし何も発さない。
しばらく無言が続くと柳がしびれを切らしてシンと呼ばれた男を引きずって二人の前に立たせる。
その姿はなんともだらしがない。シャツのボタンは開き、ネクタイは緩んでいた。この人は一体誰なのか…警察官ではないよな?玲はそんなことを思いながら瞬きをする。
「こいつは深月 夜(シンヅキ ヨル)。俺の右腕だ。」
右腕という言葉に玲と創の驚きの声が漏れる。気だるげな人が署長の右腕…?信じられない。玲は目を見開いて柳を見る。そんな視線を感じた柳は深いため息をつきながら深月の背中をバシッと叩く。かなり痛そうな音がしたが顔色一つ変えない深月はゆっくりと背を伸ばすが、徐々に元に戻っていく。
「…見た目通りシンはかなりだらしないが銃の扱いは俺より上だからこいつに教わるといい。」
「……え、なに。なんで僕が教える流れになってるの…」
無気力な口調。深月は面倒くさそうに虚無を見ている。なんで警察になれたのだろうか。
「…深月さん…僕は成瀬 玲と申します。お願いします。僕たちに銃の扱い方を教えてください。僕は強くなってエラーに立ち向かいたいんです。」
深々と頭を下げる玲。創も慌てて頭を下げる。
そんな二人を見ながら頭を掻き、柳を見る深月。
柳は目で「さっさと訓練を始めろ」と訴える。
何も考えていない顔でぼーっとしてい深月だったが突然二人の服の裾を引っ張りながら訓練所のある地下室に降りていく。訓練所はところどころに弾が散乱し、何発もの弾丸を受け、壊れた的が落ちている。深月は手馴れたように新しい的を設置し、二人に拳銃を渡す。初めてみる本物の拳銃、少し重みを感じ玲は息を飲む。こんなものを扱えるのだろうか。
「……はい。撃って。」
無関心そうにボソッと言う彼に創は慌てながら駆け寄る。どうやら文句を言っているようだ。耳を塞ぎながら玲の背後に立ち構え方、狙い方、リロードの仕方など淡々と教える。見た目とは裏腹にわかりやすい説明。玲は感心しながら必死でメモを取りながら銃を構えてみる。
「そうそう……いいね…じゃあそのまま撃ってみて。」
震える手で引き金に指を置く二人。
深呼吸しながら目を瞑りイメージをする。
同時に頷く玲と創。大きな銃声とともに銃口から煙が立ち上がり、瞬く間に消えていく。
うるさい鼓動、荒い息。銃とは恐ろしいものだ。
果たして結果はどうなったのだろうか─
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