第6話 想い舞い散る

「……よっしゃ!当たった…!」


的の中心を的確に貫いた弾丸。しかしその弾丸は玲のものではない。残念なことに玲の撃った弾丸は大きく外れ、的にかすりもしなかった。その事実にショックを受け唖然とする。自分の無力さに気づいたからだ。いや、一発で決めるのはよくない。次は当たるはず。そう思いながら二発目の弾丸を的に向ける。しかし結果は同じだった。その後も何発も挑戦するが虚しさだけが玲を支配する。一方で創は二発目も三発目も的に当てていた。喜ぶ創を横目に、玲は黙って外れた弾丸を見つめている。


「…おい、玲。あんまり落ち込むなって。誰だって最初は上手くいかないだろ。必要なのは焦る気持ちより自信だ。お前なら絶対出来るぞ。ほら、もう一回やってみろよ。」


創の慰めも今の玲にすればなんの意味もない。

強く拳を握りしめ、歯を食いしばる。


「創は当たったからそんなこと言えるんだろ…こんなんじゃダメだ。守りたい気持ちだけじゃ何も守れない。…でも僕はきっと…向いてないんだ…」


「…あのなぁ…人には向き不向きがあるんだよ。全てのことが自分の思うままにいくとは限らないんだ。お前、訓練始めて今何分だ?10分も経ってないぞ。向いてないって決めるのはさすがに早すぎるんじゃないか?自分には出来ない、向いてないって負の感情に支配されないで解決策を見つければいいんだ。」


創の言葉に深月は頷きながら弾丸を何発か発砲し、全て的の真ん中を貫く。二人は歓声をあげ、目を輝かせる。


「…そうだよ、玲くん。創くんの言う通り…解決策を見つけないとね。…あそこ、ちゃんと見てみな。君の弾丸は全て左にズレているよね。じゃあ…どうしたらいいと思う?」


深月の指摘にハッとする。確かに全て左にズレていた。玲は先程より少し右側を狙うよう意識し、引き金を引く。


「すげぇじゃん、玲!当たったぞ!」


嬉しそうにハイタッチを求める創。

自分の事のように喜んでくれる彼はとても輝いていた。ありがとうの意味を込めて強めに創の手のひらを叩く。的にはギリギリ当たった状態だったがさっきと比べると明らかにいい結果を出せている。


「だから言っただろ?向いてないって決めつけるのは早いって。お前に出来ないことは無さそうだし。…しかしあれだな…お前意外とネガティブなんだな。」


「…そ、それはそうなるだろ…エラー解除をするために必死で勉強して警察官になったのに…」


玲の顔に暗い影が差す。「お前らしくないな」と笑いながら肩を叩く創の表情には笑みの中に心配も混ざっていた。


「……ねぇ。そんな話するなら練習すれば?僕も暇じゃないんだ…映画見て、お菓子食べて…あぁ…眠たい…。あとは二人で頑張って…」


あくびをしながら立ち去る深月を止めることなく、二人は訓練に没頭する。そして時々冗談を言い合ったり、褒め合ったり。玲も徐々に的に当てれるようになった。 休憩を挟みつつも二人の手は休まることなく動き続ける。


そんな玲と創をドアの影から見守っていた柳は二人に大きな期待を抱く。訓練初日であの様子ならきっと大きな戦力になるだろう。


「…さすが成瀬くんの息子だな。正義感が強いのも諦めない努力をするのも全部同じだ。」


しかしそれと同時にとある過去が蘇る。しばらくぼーっとしていた柳だがふと我に返って現実に戻ってくる。もう一度、訓練に集中している二人の背中を見て静かにその場を離れる。そして向かう先は裏庭。大きな花束と共に、たくさんの名前の書いた板が地面に刺さっている。


"成瀬 純 " その板の前に立ち、柳はしゃがみこむ。

板を見つめる柳の顔はなんとも言えない表情だ。

柳にとって彼は親友であり、戦友だった。

しかし自分の犯した過ちで彼に二度と会えなくなってしまったのだ。哀しみ、喪失感、そして罪悪感。これらの感情は消えることなく柳を纏い続けるだろう。



「……今度…玲に話さないとな…」



柳の独り言が寂しげにそっと消えていった午前10時。



玲と創が疲れた顔で訓練所を出たのはそれから1時間後のことだった。

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