Section_4_2b「最近、元気ないんじゃない?」
## 4
放課後、図書委員会の時間。
今日は木下くんも来ていて、三人で作業をしていた。
でも、木下くんの様子が——いつもと少し違う気がする。
いつもなら、もっとうるさく喋っているのに——
今日は、なんだか静かだ。
「木下くん、どうしたの?」
私が聞くと、木下くんがはっとしたような顔をした。
「え? ああ、なんでもないよ」
なんでもない。
でも、明らかに何かあるという感じだった。
「最近、元気ないんじゃない?」
航も、木下くんの変化に気づいているようだった。
「そうかな?」
木下くんが苦笑いを浮かべる。
「いつも通りだと思うけど」
いつも通り。
でも、絶対にいつも通りじゃない。
木下くんは、何かを隠している。
「何か悩みでもあるの?」
私が心配になって聞くと、木下くんが慌てたように手を振った。
「悩みなんてないよ。俺は単純だから」
単純。
でも、最近の木下くんを見ていると——
とても単純には見えない。
むしろ、何かをじっと考え込んでいるような——
そんな表情をすることが多い。
特に、彩乃の話題が出た時とか。
あ。
もしかして——
## 5
「木下くん」
私が意を決して聞いてみる。
「彩乃のこと、どう思ってる?」
木下くんの手が、ぴたりと止まった。
「え?」
「花村彩乃。私の友達の」
「知ってるよ、もちろん」
木下くんが、なんだかそわそわし始める。
「どうして急にそんなこと聞くの?」
「なんとなく……」
なんとなく、じゃない。
最近の木下くんの様子を見ていて——
もしかして彩乃のことを好きなんじゃないかと思ったんだ。
「花村さんは、いい人だと思うよ」
いい人。
そんな当たり障りのない答えじゃ、よくわからない。
「それだけ?」
「それだけって?」
「恋愛的な意味で、どう思ってるかって聞いてるの」
私がはっきりと言うと、木下くんの顔が真っ赤になった。
「こ、恋愛的って……」
「やっぱり」
私は確信した。
木下くんは、彩乃のことが好きなんだ。
「やっぱりって、何が?」
「木下くん、彩乃のこと好きでしょ」
木下くんが、さらに赤くなった。
「そ、そんなことないよ」
嘘だ。
顔を見れば一目瞭然だ。
「じゃあ、どうしてそんなに赤くなってるの?」
「赤くなんかなってないよ」
「なってるよ」
航も、面白そうに木下くんを見ている。
「確かに、顔が赤いですね」
「航まで……」
木下くんが頭を抱えた。
## 6
「別に、恥ずかしがることじゃないよ」
私が言うと、木下くんがちらりと顔を上げた。
「だって、彩乃は可愛いし——性格もいいし」
「そうですね」
航も同意する。
「花村さんは魅力的な方だと思います」
「でも……」
木下くんが小さな声で呟く。
「俺なんかじゃ、釣り合わないよ」
釣り合わない。
「どうして?」
「だって、花村さんは明るくて——社交的で、誰とでも仲良くなれるじゃない」
確かに、彩乃はそういうタイプだ。
「でも、俺は……」
木下くんが自分を指差す。
「こんなだし」
こんな、って——木下くんはいい人だと思うけれど。
「木下くんのどこが悪いの?」
「えーっと……」
木下くんが困ったような顔をする。
「うるさいし、ガサツだし——」
「でも、優しいじゃない」
私が言うと、木下くんがきょとんとした。
「優しい?」
「そうよ。いつもみんなのことを気にかけてくれるし——困ってる人がいたら、すぐに助けようとするし」
それは、本当のことだった。
木下くんは、自分で思っているほど悪い人じゃない。
むしろ、とてもいい人だ。
「それに、面白いし」
「面白いって……」
「木下くんがいると、場が和むもの」
確かに、木下くんのおかげで——
図書委員会の雰囲気は、いつも明るい。
彼がいなかったら、もっと堅苦しい感じになっていたかもしれない。
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