Section_3_4b「あなたのお気持ちを聞かせてください」
## 4
「僕からの告白は、以上です」
航が少し緊張したような表情で言う。
「あなたのお気持ちを聞かせてください」
私の気持ち。
それは、もうとっくに決まっている。
でも、いざ言葉にしようとすると——
なんだか恥ずかしくて、うまく話せない。
「私も……」
声が震えている。
深呼吸をして、もう一度。
「私も、航くんのことが好きです」
今度は、はっきりと言えた。
航の表情が、パッと明るくなる。
「本当ですか?」
「本当です」
私がうなずくと、航が安堵したような息を吐いた。
「よかった……僕の一方的な気持ちだったらどうしようかと」
一方的な気持ち。
そんなわけない。
「私の方こそ、航くんは私なんかのこと——」
「そんなことありません」
航が強く首を振る。
「あなたは、僕にとって特別な人です」
特別な人。
その言葉が、胸の奥に温かく響く。
私も、航にとって特別な存在になれたんだ。
## 5
「いつ頃から……そう思うようになったんですか?」
私が聞くと、航が少し考えるような表情になった。
「はっきりとは覚えていないんですが——」
「覚えてない?」
「気がついたら、もうそうなっていたという感じで」
そう言って、航が苦笑いを浮かべる。
「でも、強く意識するようになったのは——展示のポップを一緒に作っていた時です」
展示のポップ。
私も、あの時の記憶は鮮明に残っている。
航と並んで作業をして、時々手が触れそうになって——
その度にドキドキしていた。
「あなたが書く文章を見ていると——この人の感性に触れていたいと思ったんです」
感性に触れる。
なんて素敵な表現なんだろう。
「私も、同じでした」
「同じ?」
「航くんの書いた言葉を読んでいると——この人ともっと話したい、もっと知りたいと思って」
航の表情が、より一層柔らかくなった。
「そう思ってもらえて、嬉しいです」
「でも、私はもっと早くから——」
「早くから?」
「図書委員の当番で、航くんが本を整理している姿を見た時から……なんとなく」
なんとなく。
最初は、本当にそれくらい曖昧な感情だった。
でも、今思い返すと——あれが、恋の始まりだったのかもしれない。
## 6
「そんなに前から……」
航が驚いたような表情を浮かべる。
「僕は全然気がつかなくて」
「私も、それが恋だとは思ってなかったんです」
恋だとは思ってなかった。
本当に、その通りだった。
ただ、気になる人がいる——という程度の認識で。
「でも、だんだんはっきりしてきて」
「僕の場合は、綾瀬さんがいない図書室を想像した時でした」
航がいない図書室。
私も、実際に体験した。
あの寂しさは、忘れられない。
「すごく寂しくて——これは、ただの友達としての感情じゃないと気づいたんです」
ただの友達としての感情じゃない。
確かに、友達なら——こんなに胸が苦しくなったりしない。
「私たち、似てるんですね」
「似てる?」
「恋に気づくタイミングとか、感じ方とか」
航が微笑む。
「そうかもしれませんね」
似ている。
でも、それは偶然じゃないと思う。
きっと、お互いに同じような感受性を持っているから——
同じような本を好きになって、同じような言葉に感動するんだ。
そして、お互いを好きになったんだ。
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