Section_3_3b「でも、どうやって輪に入ればいいのかわからなくて」
## 4
「最近、特にそれを感じるようになったんです」
曽我さんが続ける。
「文化祭の準備でも、図書委員の皆さんは楽しそうに協力し合っていて——私は羨ましくて仕方ありませんでした」
羨ましい。
曽我さんが、私たちを羨ましく思っていたなんて。
「でも、どうやって輪に入ればいいのかわからなくて」
「そんなこと……」
「『手伝いましょうか』と言っても、『曽我さんは忙しいでしょうから』と断られてしまったり」
ああ、そういうことか。
私たちも、曽我さんに迷惑をかけたくないと思って——
遠慮してしまっていたんだ。
「それで、ますます距離ができてしまって」
曽我さんの声が、少し震えているような気がした。
普段の彼女からは想像できないほど、弱々しく聞こえる。
「曽我さん……」
「すみません、こんな話をして」
「いえ、そんなことないです」
私は慌てて首を振る。
「でも、ちょっと意外でした」
「意外?」
「曽我さんがそんな風に悩んでいるなんて、全然気がつかなくて」
それは本当だった。
いつも冷静で、何でも一人でこなしてしまう曽我さんが——
こんなに人との距離に悩んでいるなんて。
## 5
「実は、羨ましかったんです」
今度は私が告白する番だった。
「え?」
「曽我さんの、あの冷静さとか、何事にも動じない強さとか」
曽我さんが驚いたような顔をする。
「私なんて、すぐに感情的になっちゃうし——人の目を気にしすぎるし」
「でも、それがいいじゃないですか」
「え?」
「綾瀬さんは、素直で——人を信頼して、頼ることができる」
曽我さんが少し寂しそうに笑う。
「私には、それができないんです」
「そんなことないですよ」
「いえ、本当に——」
「だって、今こうして私に相談してくれているじゃないですか」
曽我さんがはっとしたような表情を浮かべる。
「これも、人を頼るということだと思います」
「そう……かもしれませんね」
曽我さんの表情が、少しだけ明るくなった。
「でも、やっぱり難しいです。どうすれば、もっと自然に皆さんと関われるでしょうか」
どうすれば。
私も、そんなに人付き合いが上手いわけじゃない。
でも——
「完璧じゃない自分も見せてみたらどうでしょう?」
「完璧じゃない自分?」
「はい。失敗したり、困ったりしている時の曽我さんも」
曽我さんが考え込むような表情になる。
「それは……怖いです」
「でも、そういう時にこそ、人は助けたくなるものだと思います」
## 6
「例えば?」
曽我さんが興味深そうに聞いてくる。
「例えば……生徒会の資料整理で困っている時に、『手伝ってもらえませんか』って頼むとか」
「でも、それは生徒会の仕事ですから——」
「図書委員会だって、文化祭の時は他の人に手伝ってもらいました」
そうだ。展示の準備では、美術部の人にアドバイスをもらったりした。
「助け合うのって、当たり前のことだと思います」
曽我さんがゆっくりとうなずく。
「そうですね……確かに」
「それに、曽我さんが困っているところを見せてくれれば——私たちも、もっと親しみを感じると思います」
「親しみ……」
「はい。今の曽我さんは、すごすぎて雲の上の人みたいで」
「雲の上……」
曽我さんが苦笑いを浮かべる。
「それは困りますね」
「でも、時々見せてくれる優しさとか——今みたいに本音で話してくれる時の曽我さんは、とても素敵だと思います」
「本当ですか?」
「本当です」
曽我さんの頬が、少しだけ赤くなった。
普段の彼女からは想像できないほど、可愛らしい表情だった。
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