【告白の章】
<Chapter 3:想ひ>
Section_3_1a「返却ですか?」
## 1
文化祭から三日経った火曜日の昼休み。
私は図書カウンターに座りながら、返却本の山を見つめていた。
いつもなら木下くんが「奏っち、また本の山できてるよー」とか言って茶化すところなのに、今日はなんだか静かだ。
彼も、最近の空気を察しているのかもしれない。
返却本を手に取る。——先週誰かが借りていった本だ。
ページを開くと、前の利用者が挟んだらしいレシートがひらりと落ちる。
コンビニの、お昼ご飯のレシート。
きっと栞代わりに使ったんだろうな。この本を読みながら、誰かがお昼を食べていたんだ。
そんなことを考えていると、ふいに視線を感じた。
顔を上げると——
「…………」
航が、カウンターの前に立っていた。
いつの間に来たんだろう。音もなく現れたから、全然気がつかなかった。
「あ……」
私の声も、なんだか小さく聞こえる。
「…………」
航も、何も言わない。
ただ、手に本を持って立っている。
文化祭の日から、私たちはまともに話していない。
昨日の月曜日も、航は図書委員の時間に現れなかった。体調不良だと木下くんが伝えてくれたけれど、本当のところはわからない。
「返却ですか?」
やっと絞り出した言葉は、まるで知らない人に対するような敬語だった。
「…はい」
航も、同じように敬語で答える。
彼が差し出したのは『夜のピクニック』。
私たちが一緒にポップを作った、あの本だった。
## 2
バーコードを読み取りながら、私は航の表情を盗み見る。
相変わらず、なんだか疲れているような——
そして、どこか申し訳なさそうな顔をしている。
「返却完了しました」
「ありがとうございます」
航が軽く頭を下げる。
そのまま立ち去ろうとして——でも、なぜか足を止めた。
「あの…」
「はい?」
「展示のこと、ありがとうございました」
展示のこと。
また、あの日の話だ。
「いえ……私こそ」
「僕、文化祭の日は…その…」
航が何かを言いかけて、でも言葉を濁した。
文化祭の日は、何?
もしかして、あの時の態度について説明してくれるのかと思ったけれど——
「すみませんでした」
結局、そう言っただけだった。
すみませんでした。
何に対して謝っているのか、よくわからない。
「大丈夫です」
私も、何が大丈夫なのかよくわからないまま答えた。
「それでは」
航がまた立ち去ろうとする。
でも、このままじゃ嫌だった。
このぎこちない感じのまま終わるのは、あんまりにも寂しい。
「航くん」
思わず、呼び止めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます