第11話:今日の私と、知られたくない自分

「検索履歴、見られたら終わりやって……

なのに……あかん、まさかの机の上!?」


私は森本すず。高校一年。

妹がいる。二つ下。元気でおしゃべりな子。


私は“しっかり者の姉”って言われるけど、

ほんとは感情を外に出すのが苦手。


この前、ふと目にしたSNSの投稿で

話題のBL小説を見つけた。


タイトルは、短くて、きれいで、

でもどこか切なそうな響きだった。


レビューにはこう書いてあった。

「これは“好き”じゃない人こそ、読んでほしい」


私は“好き”がよくわからなかった。

だから、ポチった。


ポチる前、スマホの履歴を必死に消して、

家族の誰にも見られないように、

本が届く日をそわそわしながら待った。


そして、ついに届いた。

部屋の引き出しにしまっておいたはず。


──その夜。


帰宅すると、部屋の机の上に、

その本がぽつんと置いてあった。


しかも、表紙の端に付箋が一枚。


『封筒、濡れてたから出しといたよー

パパにはナイショにしておくわよ♡』


母の字だった。


頭が真っ白になった。

その場に崩れ落ちそうだった。


……なに見たん? どこまで気づいてるん?


でも母は、

何も言わずにいつも通りの夕食を作っていた。


私は部屋で、

その本の続きを読んだ。


ふたりの関係は、はっきりと“好き”とは言わない。

けど、どこまでも深く、

お互いを大事にしていた。


最後のページ。

「言葉じゃなくて、お前のそばにいることで、

 俺はずっと、好きって言ってたんだよ」


──あ、そっか。

こういうのも、“好き”っていうんだ。


私はスマホを手に取り、

鍵をかけたアカウントで、そっと投稿した。


@suzubl\_lock · 1分前

バレたかもしれん……

でも、この本に出会えてよかった。

わからなかった“好き”の輪郭、

今夜、ちょっとだけ見えた気がする。

\#初ポチBL #感情が言葉になる夜 #ごちそうさまでした🙏


🔁 26件 💬 11件 ❤️ 89件


▶︎ @kagi\_aka\_bk

ナイショメモがやさしすぎて泣いた…


▶︎ @sister\_bond

妹にじゃなくてお母さんに!?ドキドキ


▶︎ @quietlove

そばにいることで“好き”って…沁みた


たぶん母は、なにも責めなかった。

それだけで、ちょっと救われた。


次回予告

第12話:今日の私と、“好き”を言う日


「好きって言うだけなのに、

こんなに心臓がうるさいなんて思わなかった。」


ずっと“読むだけ”だったあの子が、

初めてSNSで言葉をつぶやく。

「ごちそうさまでした」──その一行に、全部をこめて。

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