第10話:今日の私と、交換日記の箱
「“その本、お前に似てる”って言われて……
なんでか、涙が止まらなかった。」
私は朝比奈あゆみ。高校一年。
図書委員で、本棚整理が好き。
教室の喧騒が苦手で、放課後はいつも
図書室の窓際に座ってる。
その日も、貸出ノートを整えていたら
無口な男子が、ふと近づいてきた。
手にしていたのは、文学寄りの小説。
装丁も地味で、あまり借りられない本。
「これ、……なんか、お前に似てる」
ぽつんと、それだけ言って、
カウンターに本を置いて去っていった。
……似てる?
意味がわからなかった。
でも、どうしてだろう。
その夜、家に帰って
その本のタイトルを検索していた。
レビューを読んで、初めて気づいた。
それは、BLだった。
……男の子同士。
知らなかった。
そういうジャンルのことも、感情も。
“静かに寄り添っていくふたりの話”
買うべきか、迷った。
でも、本当に似ているのか知りたかった。
──ポチ。
数日後、封筒が届いた。
誰にも知られないように、
部屋の引き出しにしまって開いた。
読んでいるうちに、
胸の中が、じわじわと熱くなった。
好きって、叫ぶような言葉じゃなくて
隣にいる時間とか、
目を伏せた一瞬とか。
そんなんで、こんなに感情が動くの。
ふたりが心を通わせるたびに
自分の中の静けさが、
少しずつ色を持っていくのを感じた。
最終ページの一文で、涙がこぼれた。
「お前の静けさが、俺の居場所だった」
次の日、図書室の返却棚に、
その本がもう一度戻っていた。
そっと、そこに、
小さなメモを挟んだ。
“ありがとう。たぶん、私、似てた。”
その夜、匿名のSNSアカウントに
投稿した。
@silent\_words · 3分前
はじめて読んだBLは、
まるで交換日記みたいだった。
静けさの中に、
あたたかい言葉がちゃんとあった。
\#初BL #図書室で泣いた #ごちそうさまでした📘
🔁 38件 💬 18件 ❤️ 105件
▶︎ @quiethearts
“交換日記みたい”って表現、ほんとそれ…
▶︎ @hon\_no\_kimochi
静かな愛が、いちばん響く夜もあるよね
▶︎ @senmokuhyou
あなたの静けさも、誰かの居場所かも
本は閉じた。
でも、心の中で
まだページがめくられてるみたいだった。
次回予告
第11話:今日の私と、知られたくない自分
「検索履歴、見られたら終わりやって……
なのに……あかん、まさかの机の上!?」
妹に見られた? 親にバレた!?
ポチったBLが、家族に発見される非常事態!
机の上には“ご丁寧に付箋”まで……!?
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