転生先は魔核戦争後の終末世界だった件

めぐみ

第1話 「瓦礫の中の目覚め」

――01:目覚め


 砂混じりの風が吹き抜ける、静まり返った空間。

 鼻をつく金属と油の匂い。そして、骨の奥から響く鈍い痛み。


「……ッ、ん……」


 少年のような声が、濁った沈黙を割る。


 ユウはゆっくりと目を開けた。視界は灰色に滲み、視界の端に奇妙な赤が滲んでいた。自分の血か、照明の残光か、それすら分からない。


 見上げた天井には、ひび割れた鉄骨と垂れ下がった配線。耳を澄ませば、機械の唸りとも、風音ともつかぬノイズが、断続的に響いていた。


「……どこだ、ここ……?」


 声はかすれていた。喉が焼けるように乾いている。


 ユウは上体を起こそうとしたが、背中に鋭い痛みが走り、再び床に崩れ落ちた。

 しかし、倒れた音が思いのほか静かだったことで、自分の体重が極端に軽いような錯覚を覚える。


(違う……これは、違う。普通じゃない)


 頭がうまく働かない。けれど、危険な場所だという感覚だけははっきりしていた。

 あたりを見回しながら、彼はぎこちなく立ち上がった。


 場所は、廃墟のようだった。コンクリート片、砕けたガラス、焼け焦げた電子機器の残骸。見覚えのない機械が壁に埋め込まれており、そこからわずかに電源が残っているような光が漏れている。


 そして何より、無音が支配していた。

 虫も、鳥も、人の気配も、一切ない。


「……夢か……? いや、違う」


 ユウは額に手を当て、自分の名前を思い出そうとした。すると、すぐにひとつの単語が浮かぶ。


「ユウ……俺の名前は、ユウ」


 それだけは確かだった。けれど、それ以外の情報は、まるで靄に包まれたように曖昧だ。自分が誰で、どこから来て、なぜここにいるのか。すべて、白紙。


 それなのに、何かが“懐かしい”と感じられるのだった。



――02:転生、なのか?


 足元に転がっていた棒状の金属を拾う。感触は冷たく、滑らかだった。

 反射的に構えてみると、まるで長年使い慣れたように手に馴染む。


 ユウは自分自身に驚いていた。

 どうしてこんなに自然に身体が動くのか。筋肉の動きすら、思考より速い。


「まさか……これは、異世界転生ってやつか……?」


 冗談のつもりで呟いたはずだった。けれど、声にはうっすらとした期待と恐怖が滲んでいた。


 記憶喪失。見知らぬ廃墟。異常に反応の良い身体。

 どこかで聞いたことがあるような“テンプレ”だ。


 けれど、夢にしては妙にリアルすぎる。


 肌寒さ。足元に散らばる瓦礫の尖った感触。機械が焼けた金属臭。


 すべてが、五感を通して“現実”を訴えてくる。


「……違う。“そう思わせようとしてる”だけかもしれない」


 ふと、脳裏にそんな言葉がよぎった。

 それがどこから来たのか、彼自身にもわからない。だが、心の奥底で、何かが微かに軋んだ。



――03:出口を求めて


 あたりを慎重に探索する。崩れかけた扉を押し、階段のような斜面を登る。

 途中で何度か瓦礫が崩れ、足場が傾いたが、ユウは驚くほど冷静に体を支え、抜け道を見つけた。


 途中、壊れた端末のようなものがあった。画面は割れ、筐体も錆びていたが、ユウが触れると一瞬だけ電源が入る。


《起動信号確認:アクセス要求?》


 画面に、そう表示された。


(読める……? なんでだ……)


 ユウは自分の思考に混乱しながらも、無意識に操作を進める。


 だが、画面はすぐに暗転した。電力が限界だったのかもしれない。


「……どうなってるんだ。これ、本当に俺の知ってる世界か?」


 かつて見たことのない廃墟の都市。そして、なぜか見覚えがあるようなUIデザイン。

 不自然な一致が、彼の中に不穏な予感を積み重ねていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る