老人とAI

種・zingibercolor

老人とAI

 ファミレスの料理出し猫ちゃんは進化して、今や家事および家庭の在庫管理を担えるようになった。

 しかしAI搭載家事ロボットを使いこなせる老人は少なく、今も母親はAIにキレている。


「アレよ! アレ出して!」

〈特定に必要な情報が不足しています〉

「昨日のアレ! キャベツのやつよ!」

〈特定に必要な情報が不足しています。昨日とキャベツに関連した事象は、キャベツ苗の水やり、キャベツ半分の購入、昼食の千切りキャベツ、夕食の鮭のちゃんちゃん焼きです〉

「そう! それ! ちゃんちゃん焼き! ほんっとうにAIって使いづらい!」


 見ていられなくて、私は口を出した。


「お母さんのAIの使い方が下手なだけじゃん。アレとかコレばっかり、指示代名詞だけで何も分かるわけないでしょ」

「あんたはアレって言えばわかるじゃない!」

「わかるけどさ、お母さんそうやって固有名詞言うのサボるからボケたんでしょ」

「ボケてないって言ってるでしょ!」


 またキレる母親に、私はこう言った。


「じゃあ、私の名前、わかる?」

「……え?」


 母親はぽかんとし、それから慌てだした。


「え、あら、ヤダ、わかんないわけじゃないのよ、えっと、その、アレでしょ! アレ!」

「もういいよ、一生指示代名詞言ってな」


 はるか昔、【あいまい検索】という機能があったそうだ。それでも、指示代名詞だけでは何も検索できなかっただろう。

 AIを使いこなせる老人は少ない。だから、こんなにもAIが発達した今でも、親の介護のために同居を強いられる人間は消えない。

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