air conditioner

@kaaaaaki

第1話

冬にエアコンを変えたのだ。


風を無理やり絞り出すかのように、がたがたと音を鳴らしていたエアコンは、「しずか」にしてもうるさかった。


年末、電源をつけてしばらくしても音は鳴らなくて壊れてしまったようだったので、リビングへ降りていって母に伝えた。


「エアコン壊れたかも」


母を連れて私の部屋に戻ると、何事もなかったかのようにエアコンは息を吹き返していた。


いつものがたがた音もない。「しずか」に従って、静かに暖風を送っていた。


「確かに効きは良くないね」


そう言って、母はリビングへ帰っていった。


まるで生きているようだ。


そう思って、風の送り主に小さく笑いかけた。


途端、エアコンはがたがたとまた揺れ始めた。


「…本当に生きてるの?」


エアコンからの返事はない。


ただ私の心に暖房が付いたようで、それは静かに私の体を温めた。


次の日。


起きると、暖房が付けっぱなしだったようで口が乾いている。


手探りでリモコンを掴み、停止ボタンを押すと、ピッと音が鳴る。


「運転を 停止します…」


体をベッドから起こして部屋を出る。


上顎に引っ付く舌を遊ばせながら、階段をゆっくりと降りていく。


珍しく早く起きたので、父がまだ仕事に出かける前のようで、朝ごはんを食べている。


「おはよう」


「…あぁ、おはよう」


挨拶を交わして、キッチンの冷蔵庫へ向かい、その中段から牛乳パックを取り出す。


「エアコンのことだけど」


「うん」


食洗機の中のコップを探しながら返事をする。昨日の夜、あのあと父に話したのだろう。母はもう出掛けてしまって家にいない。


「再来週末には設置工事するから部屋片しといて」


牛乳を注ぐ手が止まる。


「え?」


「夏になる前に換えとかないとってママが言ってるからさ、よろしく」


ああそうか、買い替えるのか。


ふと天井を仰ぐ。


「-本日は昨日の天気からは一転、夕方にはところどころ雨の降るところもあるでしょう…」


そういえば今日は友達とカラオケに行く約束をしていた。雨が降るのなら湿気の対策をしなければならない。


「…前髪固めなきゃ」

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