第16話 敵の大将は

武器を取り上げられ、腕に縄をかけられて拘束されたヴァルターら5人は戦利品の集積所の近くにあった大きな黒いテントに連れられた。中は地面に何かの動物の毛皮が敷かれた貴族用の高級テントの様に見えた。甲冑を着た魔族の兵士に「座れ」と槍の穂先で突かれ、ヴァルターとヴォルフラムの5人はやむなく毛皮の敷かれた地面に腰を降ろした。目の前の折りたたみ式の椅子にどっかりと黒の大将軍が座り溜息をつきながら黒い兜を脱ぎオークの顔を見せつけた。

ヴァルター達5人は息を飲んだ。彼らはオークの事は文献や大公軍が捕まえてきた捕虜の者を見た事があるがたいていはゴブリンと同じ薄い緑色だった筈だ。だが目の前にいるのは顔は醜いながらも人間と同じ肌の色をした黒髪のオークだった。


「この顔を見たものは人間でも魔族でもそんな顔をする様だな?」


人間達の使うグーツ語を流暢に使いながら黒の大将軍はヴァルター達5人に一方的に喋った。喋りながら何処か悲しそうな目でヴァルター達を眺めていた。

ヴァルター達が心の中でオークの新種かと勘ぐっている内に黒の大将軍が魔族達の言葉として使われるトロール・スピーチでヴァルター達から見て左手にいた緑肌の派手な服を来ていたオークに話していた。高級将校らしいそのオークに対して手振り身振りから何かを持ってきて来いと言っているのは何となく分かった。

テントの中へと拘束されたゴブリンが甲冑の兵士に連行されながらヴァルター達よりさらに前、黒の大将軍と高級将校のオークの目の前へと連れられていく。ヴァルターにはそのゴブリンに見覚えがあった。戦利品の集積所に潜入した時にヴォルフラムをいたぶっていた魔族の兵士の一人であり剣で腕に傷を負わせた奴だった。手をよくみるとどの指にもボイマルケン製の宝石の入った指輪を嵌めていた。黒の大将軍の目の前で跪いたそのゴブリンは腕に手当を受けていたが黒の大将軍を見た奴の顔は緑色でも青ざめているのがヴァルターには分かった。

黒の大将軍はトロール・スピーチでそのゴブリンの手に嵌めていた豪華な指輪を指さして何かを問いただしていた。ゴブリンは首を横に振りながら否定する素振りで叫んでいた。黒の大将軍は問答を続けている様子で、ゴブリンは同じ言葉を何度も発して徐々に泣き始めていた。そんな惨めなゴブリンの様子を冷たく眺めていた黒の大将軍はトロール・スピーチで一言テントにいた兵士の一人にゴブリンを指さして命じた。ゴブリンは泣きながら黒の大将軍の靴に口づけたが黒の大将軍は嫌そうに声を荒げてそのゴブリンを足から引き剥がすと兵士へと引き渡し、その兵士に外へと連行されていくゴブリンを眺めていた。

すこしの間が過ぎてテントの外から剣が肌を切る生々しい音と絶叫が響いた。続いて何か重いものがボトリと落ちる音がし、後は複数人のゴブリンと思わしき軽い足音がしたと思うとテントから遠ざかっていった。何が起きたのか理解できたヴァルター達はその事態に戦慄した。


「さっきの奴は集積所の番兵と共謀して戦利品の分配の掟も無視して俺の取り分の宝石や甲冑を盗み出したり捕虜を勝手に痛めつけていた。お前達がそいつらを殆ど殺して生き残ったのが奴だけだから奴は俺の親衛隊が捕まえて軍事裁判で打ち首にしてやった。まぁこれで3人目だ」


グーツ語で黒の大将軍はヴァルター達に語った。平然とした顔で喋っていたので部下を打ち首にした事に特に思う事は無かった様である。


「氏族や部族から徴兵された雑兵はこれだから困る。奴らは自分達の生活が貧しいからと言い訳して規定された戦利品以上のものを盗もうとする。」


今度は高級将校と思わしきオークが頭を抱えながらグーツ語でヴァルター達に語る様に喋った。魔族といえど将校にもなれば人間のグーツ語を喋るのだなとヴァルターは思った。一方黒の大将軍はヴァルター達5人を睥睨しながらグーツ語で言葉を続けた。


「ボイマルケンの旗騎士のヴォルフラムは俺の捕虜だから知っているが・・・貴様らは何だ?」


黒の大将軍は椅子から立ち上がりヴァルターを見下ろしながら彼を指さした。

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