第14話 敵の血の色

父親を痛めつける魔族達への怒りが雄たけびとして発せられ真上の木箱から地面へと着地したヴァルターは手にしたアーミングソードで一番近かったオークの大男めがけて喉を突き刺した。甲冑も付けずチュニックと武器だけだったそのオークは何が起きたのかも分からないまま緑の血に溺れて倒れた。状況を即座に理解した他の魔族達が短剣を抜いてヴァルターに襲いかかる。最初に襲いかかったゴブリンの短剣の突きを横にかわしてその胸に一太刀を浴びせた。激痛で地面に横たわった最初のゴブリンを横目に次に襲いかかったオークにヴァルターは対処した。そのオークは叫びながら短剣を振り回しながらヴァルターを斬ろうとするがことごとくかわされ、大きく短剣を横に振った隙に懐に入り込み腹を勢いよく突き刺した。突いたオークの体越しに短剣をもったゴブリンの二人組と入口を警備していたゴブリンの槍兵が襲いかかろうとしていた。

ヴァルターは左手をかざし突風を放った。突然の突風によろめいたゴブリンの3人は態勢を立て直す暇もなく、流れるように襲いかかったヴァルターにアーミングソードで胸や首を斬られ地面へと倒れていった。ハインリヒが騎士らしくなく弓の鍛錬に腕を磨いていたなら、ヴァルターの方は故郷のヴルムドルフの村に住む家のお抱えのエルフから魔法、特に風を操る風魔法の修行をしていた。大公の宮殿の小姓として宮仕えする事になった後も魔法の修行の鍛錬を欠かす事はなく、師匠のエルフには及ばないが今なら掌を魔法の発動の起点として突風を放つ事位はできた。一方的な殺戮にハインリヒら3人の従騎士は唖然としながらも集積所へと降りて行って地面にうずくまっていたヴォルフラムへと集まっていった。

初めての殺しについて思う暇もなくヴァルターは父ヴォルフラムに膝を下げた。右手に持っていた剣でそのままヴォルフラムを縛っていた縄を切って彼を解放した。


「父上!助けに参りました!一緒に逃げましょう!」


ヴォルフラムは顔をヴァルターの方へと上げた。何が起きたか信じられないという顔だった。最初は息子の活躍に感心したのかと思ったヴァルターだったが、ヴォルフラムが疲弊しながらも顔を不機嫌にしていく。


「馬鹿者、何をしにきた!敵の陣地に忍び込んで無謀にも程があるぞ!」


「助けに来たんですよ!奴らは人を食うんです!」


他の3人を置いてヴァルターとヴォルフラムの言い合いが始まる。


「ヴァルター、俺を残して急いでこの要塞から逃げてグリュンブルクに戻れ!」


「そんな事できません!父上を助けに来たのに本末転倒です!」


「城に戻って伝えるのだ!ここには黒の大将軍が来ていると・・・」


その名を聞いて一瞬ヴァルターは固まった。魔王の親衛隊の司令官を務め全身を黒の禍々しい甲冑に身を纏った故に付けられたあだ名だった。その黒の大将軍の向かう戦場は常に魔族に勝利を、人類に敗北と惨禍をもたらすという恐ろしい話しを開戦当初から聞いていた。

しばしの沈黙の間ヘルムートがヴォルフラムにもう一度問う。


「ヴォルフラム様、本当に黒の大将軍がここにいるんですね?」


「そうだと言っているヘルムート君!だから早くここから・・・」


ガシャンと甲冑のぶつかる音が戦利品の集積所の入口から聞こえた。ヴァルター達とヴォルフラムが恐る恐る入口の方へ顔を向けるとそこには真っ黒の甲冑に身を纏った大きな男が派手な兜から息を吐きつつ長い棒を構えていた。

黒の大将軍の登場にヴァルター達は戦慄した。

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