第7話 リンダの頼み

「嫌よ」


きっぱりとした表情でレギンリンダは従騎士ヴァルターの嘆願を拒否した。

ヴァルターは諦めずもう一度彼女に頼んだ。


「お願いします姫様、俺だけで良いから出させてください!父を、ヴォルフラムを助けさせてください!」


「私に軍の指揮権はないわ。でも貴方をこんな状況で出撃させる事はお断りします。」


ヴァルターの要求をもう一度拒否した後、レギンリンダは溜息をついてヴァルターに言葉を出来るだけ優しくかけた。


「ヴァルター、ヴォルフラム様の事はお父様から聞いたわ。あの方の従えるエルヴィン様が身代金を払うと進言した事も。でも身代金はお父様が払うと聞きました。」


「姫様、お言葉ですがオークが敵なら身代金など気にせず捕虜は殺して適当に守りの薄い村を襲って略奪するでしょう。」


静かに語気を荒げるヴァルターにレギンリンダは「落ち着いて頂戴」と彼の気を鎮めようとしていた。


「相手がオークでも今すぐヴォルフラム様を殺すとは思えません。敵も人手がいるのだから今はきっと幕営の陣地を作るといった作業をさせられる筈。それにオークだってお金は欲しいと思うわ。」


ヴァルターは一応理にかなったレギンリンダの持論に反論しなかった。彼女は言葉を続ける。


「ヴァルター、貴方を行かせてしまえばそれこそ敵は何の迷いもなく貴方を斬ります。私はそれは嫌。銀貨だろうと金貨だろうとヴォルフラム様の身代金は払います。だから今は我慢して頂戴。」


レギンリンダはこれでヴァルターが納得してくれると信じていた。しかし彼の顔を見ると今にも泣きそうな顔だった、いや泣く寸前だった。


「父上の郎党で戦友だったエルヴィン殿があんなに泣いたのをみて俺もやっと思い出したんです。エルヴィン殿は父上と共に10年前の魔族軍の侵攻を食いとどめた戦争に参加した時に捕虜となった多くの戦友の騎士が命を失ったと聞きます。同じ事が父上に起こるかもと思って涙を流したんです。」


ヴァルターの溢れんばかりの涙が両頬を冷たくつたいぽたぽたと滴る。幼馴染としてレギンリンダは彼が厳しい稽古や躾に耐えきれずに泣いた所を何度も見たことがある。しかしこんな風に泣くのは初めてで彼女も困惑した。ヴァルターから両手をゆっくりと捕まれレギンリンダがはっとする。


「リンダ、頼む。出撃させてくれ。俺に父上を救わせてくれ・・・」


幼馴染にかつての名で呼ばれ、レギンリンダには断る事は出来なかった。

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