第4話 狙う影
「巳影様…本当に大丈夫ですから」
私が食料調達のために釣りに行こうとしているところを巳影様に見つかり、雪道の中ついてきてしまったのです。
しかも、私の荷物を取り上げ2人分巳影様持ち、サクサクと私の前を歩きます。
「巳影様は神社でお待ちください。こんな雪山寒いですし、病み上がりのお体に障ります!」
「平気だ、動いている方が心地いい。それに1人より2人の方が多く釣れるだろう?」
「そうですけど…巳影様は釣りの心得がございますの?」
「これでもよく抜け出して町の子供らとよく行ってる」
「意外にわんぱくでいらっしゃるのですね。」
本人は口を割りませんが、おそらく貴族の子供。
貴族の子供はそうそう外に出て町の子供と遊ぶなんてことはできないはずですが…平然として喋っているというのはそういうことなのでしょう。
しかし、そんなことを言っている場合ではありません。
とにかく、戻るように説得しなければ。
「巳影様の方こそ、危ないのでは?」
「この辺りは結界が張られているのだろう?ならば問題ない。」
「確かに、この辺りはまだ結界が張られている範囲内ですが…」
「それに、冬の日に、こんな寒い場所に置き去りにされたら、生きてるとも思ってないだろうし、だれも狙いに来ないと思う」
「…」
本当は、もっと自分の身を案じてください…と怒るつもりだったのですが、そんな巳影様の言葉を聞いたら…彼の闇の部分が垣間見れた気がして…何も言えなくなってしまって、振り上げたこぶしを収めるしかありませんでした。
結局説得は失敗し、いつもの個人的釣りの穴場にたどり着いて、2人で釣りを始めてしまいました。
「ところで、このように寒い時に魚謎釣れるのか?」
「冬と言えばワカサギですわ。」
「甘露煮にしたらうまそうだな」
「いいえ、ワカサギは塩焼きに限りますわ。大根もありますし、大根おろしを添えたら豪華になります。」
「なかなかいい付け合わせだな。豪華な食事のために、たくさん釣らねばな」
「まぁ、あまり期待しない方がいいかもしれないですけれど。」
私は冬の川で釣りをしながら、そんなたわいのない話をしていたと思います。
呪詛や悪霊の心配はありません。
本当は巳影様を神社に連れて行った方が安全なのですが…神社付近は父が結界を張っているし神社はすぐそこ、さっさと釣って戻れば何も起きない…
そう思った私たちは、日が暮れるまで釣りをつづけたのでした。
この寒い時期にしてはよく釣れ、魚籃にはワカサギが大量でした。
「これで今日の食事には困りませんわね」
「食べきれるだろうか」
「余ったら塩漬けにでも致しますわ。」
そうしてかたずけをしながら話していると、キシッという足音が聞こえてきました。
雪を踏む人間の足音です。
「何の音でしょう?」
私はもしかしたら父かもしれないと振り返えろうとしました…
しかし
「危ない!」
「キャッ」
巳影様にドンッと体を突き飛ばされ、体勢を崩した私は地面に転がりました。
そしてその直後、シュパンッという音とともに…
「う…」
直後、巳影様のうめき声が聞こえます。
「巳影様!」
振り返ると、腕を抑えてしゃがみこんでいる巳影様の姿がありました。
裂けた着物の裾から、血が流れていました。
地面には弓矢が刺さっている。
巳影様は、私をかばい、腕にけがをしてしまったようです。
「お怪我は!?」
「ただのかすり傷だ…それより逃げるぞ」
「え?」
あまりの展開に理解ができず、足がすくみ呆然としていると、またもう一本、今度は私の足元にシュパンッと弓矢が刺さりました
「走れ!」
我に返った私は、巳影様に手を引かれるがまま、逃げまどいました。
走れど走れど、弓矢は私たち二人を狙ってはなってきます。
釣り道具も魚もすべておいてきましたが、気にしてる場合なのではありません。
振り返る余裕すらないので、私はどのような人物が弓を放っているのか、確認もできませんでした。
山の中という利点のおかげで、何とか相手をまくことはできましたが、気が付けば夜になってしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。