モブでオタクのハイスペ王子
@komugiinu
第1話
朝、目が覚めたら乙女ゲームのヒロインになっていた。
養女だけど、男爵令嬢、そして何でもありの聖女の力を持っている。
今日から学園に通うはずだ。
最近のこの手のストーリーは、
ライバルの悪役令嬢も転生者で、
事前にあれこれ根回ししているのに、
ヒロインが色々と欲張り過ぎて、
最終的に負け組になるパターンが多い。
でも私は大丈夫
何でも欲しがり屋ちゃんじゃないからー
学園に行くと、
予想した通り、悪役令嬢も転生者だった。
彼女も事前に対策をしたらしいけど、
そのやり方は最悪じゃん!
1番の攻略対象、わがマシュマロ王国の第一王子は、
“私(悪役令嬢)との婚約を破棄した場合には、死をもって謝罪いたします”
という誓約書を書かされていた。
し、死刑⁉︎
「国王が許すと言ってもダメよ、
これは国の正式な文書なんだから。
あんたが愛嬌をばら撒いて
たとえ彼が好意を持ったとしても
国家に逆らって、命を落としてまであなたを選ぶかしら?」
(コイツの父ちゃんは宰相だっけ、
法律で王子の首根っこを押さえつけた訳か!
性格わるー)
「他の攻略対象者たちにも、同じような誓約書を書かせているから、
あなたの入り込む隙なんて無いわよー。」
ホッホッホッ
私は、別に王子が欲しいわけじゃないし、何だこの牽制は?
とにかく、私はこの悪役令嬢のことを、大っ嫌いになった。
何だか名もないモブたちは、
意識しなくてもダダ漏れする私の好感度に、撒き餌のように寄ってくる。
もうこうなったら、攻略対象外、モブの中から、優良物件を見つけよう。
そう考えて、
学園名簿を読み漁った。
留学中の、隣国の第ニ王子、
成績優秀、容姿端麗
これだ! 見つけた!
でも何でこんな好条件(ハイスペ)なのにモブなんだろう?
会いに行ったら、一目で分かった
“オタクだわー”
ずーっと座って
この世界には存在しない、蒸気機関車の模型なんか作っている、
“転生者の鉄オタだわー”
鉄道オタクの王子は熱く語った。
「あなたも転生者なら分かるでしょう?
この世界には馬車しか無いんですよ!
鉄道はロマンです
老若男女、様々な乗客を乗せ、
大地を勇猛に突き進んでゆく、
馬車ではこの迫力は出せません。」
(あー そうですかー)
「作ればいいじゃん、そんなに好きなら、
あなた王子でしょう?」
「父上に言ったら、そんな夢みたいなことばかりで、お前には常識がないと呆れられました。
それでもっと世の中のことを学んでこいと、このマシュマロ王国に留学させられたんです。」
「まあ実際のところ、
こうやって、ハコは作れるのですが
動力が無いんですよね、この世界には、
石炭さえあればなあー」
「蒸気機関車はカッコいいと思うけど
1からちゃんと動くように作れるの?」
オタク王子はムッとしたように言った。
「学園祭では、手作りのミニSLに
子供たちを乗せて走らせてましたから」
「じゃあまずそれを作って
お父様にアピールするのよ、
これをもっと大きく作れば、馬車よりずっと輸送力が上がりますって、
口先だけでごちゃごちゃ言っても、変な人だと思われるだけよ。」
「でも石炭が無いんですよお。」
私は何だかヤル気が出てきた。
「フッフッフッ、
お忘れですか?
私はチートの聖女なのよ
そこら辺の石ころからでも魔石を作ってあげられるわ、
石炭より火力が高いし、ついでに煙も出ないしねー」
「ええー、煙が出ないの?」
「そんなこだわりどうでもいいじゃん!
文句ある?」
彼は小さくチッと言った。
(これだから素人はー)
「じゃあ、魔石に少し木炭を混ぜれば?」
「あ、それいいですね!」
暫くすると、彼はヨレヨレの姿でやって来た。
「か、完成しました、見にきてください。」
何日寝ていないの?
オタクの執念は凄い、
学園裏のひとけのない芝生の上に
遊園地の乗り物のような小さな機関車が置いてあった。
「出発進行!」
そう言って、子供みたいにはしゃぐオタク王子と私を乗せた機関車は、丸く敷かれたレールの上を、風を切ってクルクルと走り続けた。
「これを持って、父上を説得するために国に帰ろうと思います。
あなたも僕と一緒に来て貰えませんか?」
「えー?」
「僕はあなたが隣にいてくれると、今よりもっと前に進めそうな気がするんです。
そして、前に進んだ時には、やっぱりあなたが隣にいて欲しいんです。」
「へえー、そうなんだー
じゃあ、一緒に行ってあげるよ。」
(あれ、でも聖女が勝手に国を出てもいいのかな?)
神殿は、
「どうぞ、どうぞ
もう帰って来なくてもいいですよ。」
何ちゅう言い方だ、
いいよ、もう帰って来ないから!
たぶん、あの悪役令嬢の差し金だろうな
何だか元気がなかった王子は、
意外にも、国王の前で堂々と喋った。
「この仕組みは、船にも使えます。
レールを敷く必要がないので、機関車より初期費用が少なくて済みます。」
おお偉いぞ、鉄道だけにこだわっている訳じゃないんだ。
「大学では機械科でしたから。
学会で発表したこともありますしね。」
国王が貴族たちに呼びかけ、王宮の庭園で
彼のミニSLはお披露目された。
「蒸気機関は汎用性が高いのです。
熱を動力に変えられるので、
紡績工場など
今まで人の力でやっていた
多くの事に応用可能です。」
貴族たちに向けた
王宮でのプレゼンは大成功だった。
貴婦人たちは、何度もミニSLに乗って楽しんでいた。
聖女の私がチートの力で魔石鉱山を掘り当てて、
彼は様々な仕組みの蒸気機関を設計した。
その結果、この国では王室からのトップダウンという形で産業革命が起こり、
生産性は格段に向上した。
もと私がいたマシュマロ王国との国力の差は歴然となり、
やがてマシュマロ王国は、私たちの国に平和的に併合された。
マシュマロ国王は一領主となり、
第一王子は、
悪役令嬢との婚約をさっそく破棄した。
モブでオタクのハイスペ王子 @komugiinu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます