NO LIEF

嗚呼烏

嘘とは

嘘というものは。

修正液である前に、白いインクだ。

修正液を垂らすだけでは、絵は完成しない。

そんな紙は、つまらないだろう。

黒を隠すための色であるべきものを、白として使う。

これが、悪い嘘だ。

逆に言えば、黒を隠すため。

つまり、他人が良い気にならない事実を伏せるための嘘。

これは、良い嘘だ。

「嫌いな人から物を貰っても、嬉しくありません。」

ところで。

俺たちが今、生活している世界は。

嘘がつけない世界だ。

この世界では、黒を隠せない。

人を不快にさせることを言わない選択肢は、存在しない。

こんなプライバシーのない世界では、膨大なストレスを抱える人が。

「あ。俺のこと、嫌いだったか。ごめん!」

特別に多いわけではない。

嘘がない世界を、皆が理解している。

一人だけ嘘がつけないというのは、ファンタジーの小説で見たことがある。

皆に嫌われるバッドエンド。

それは、その皆に選択肢があるからだ。

例えば。

俺のこと、好きかな。

嫌いな人から、こんなことを言われた時。

好きだと嘘を伝えるか、嫌いだと正直に伝えるか。

その二つの選択肢がある。

そして、大抵の人は皆。

正直に伝える意味がないと感じる。

傷つけるくらいなら、嘘をつく方が美しい。

そんな世間体があるからだ。

「なるべく関わらないね!」

でも。

この世界では、嘘がつけない。

嘘をつく方が美しい、と言われても。

では貴方は嘘をつけるんですか、という反応をされてしまう。

嘘をつくという美しい行為が、ありえないことになることで。

本当のことを言って、傷つけてしまうことが普通になった。

嘘をつく行為という、美しい比較対象が実現不可能になることで。

本当のことを言うより、美しいことがなくなったからだ。

話は変わるが。

膨大なストレスを抱えている人が、特別に多いわけではないと言った。

では、この世界は。

嘘がつける世界と同じ幸福度なのか。

それは、一概に言えることではない気がする。

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