夜ふかしの傘鳥(からす)
sui
夜ふかしの傘鳥(からす)
夜の街には、誰も知らない“夜ふかしの鳥”がいる。
名前は「傘鳥(からす)」。
黒い傘のような羽根を広げ、眠れない人の屋根をそっと飛び回る、不思議な鳥だ。
人間には見えない。でも、その気配は残る。
――たとえば、夜中にふと目を覚ましたとき、カーテンの外に揺れる影。
――雨でもないのに、ベランダの手すりがしっとり濡れている朝。
それは、傘鳥が来たあとのしるし。
傘鳥は、眠れぬ者の夢を集めて、夜空の高いところに運ぶ。
そして、静かな羽音といっしょに、それを少しずつ降らせていく。
夢のしずくは、誰かのまぶたにそっと落ちて、眠りの扉をひらく。
ある夜、傘鳥はちいさな子どもの部屋に降りた。
その子は、布団の中で目をぎゅっと閉じていたけれど、夢に入れずにいた。
両親のけんかの声が、壁の向こうにうっすらと響いていた。
傘鳥は、その子の枕元に舞い降りて、翼をそっと広げた。
黒い羽根が空気を包み込み、外の音がすうっと消えた。
すると、子どもの胸の奥から、あたたかい色の夢が浮かび上がった。
海の中を泳ぐ猫の夢。雲でできたお菓子の街。風船で飛ぶベッド。
傘鳥はその夢をくるりと巻いて、大きな黒い傘に閉じ込めた。
そしてそっと、子どもの頭の上でそれを開いた。
夢は、ふわりと降った。
子どもは小さく息を吐き、ようやく深い眠りへ落ちていった。
傘鳥は音もなく飛び立つ。
そのあとには、窓ガラスに小さな水玉が残った。
それを朝見つけた誰かが、「雨かな?」と首をかしげる。
でも本当は、それは夢のしずく。
夜が明けるころ、傘鳥は誰にも気づかれず、また次の屋根へ向かう。
夜ふかしの傘鳥(からす) sui @uni003
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