サイン~あなたと共に生きるために
蓮条
運命的な出会いは、意外な人
第1話 超ど天然の女の子
一学期の最終日である今日は学校が半日で終わり、
「いらっしゃいませ、こんにちは~。ご注文がお決まりになりましたら、お伺い致します」
「えぇ~っと、コク旨ポークチキンカツのLセットの、ポテトとアイスティーで」
「アイスティーはレモンとミルクがございますが」
「付けなくていいです。ストレートで」
「かしこまりました。コク旨ポークチキンカツのLセットがお一つ、フライドポテトとストレートアイスティーのセットですね」
「はい」
いつも最初に頼むのは新。
この三人メンバーのリーダー的存在。
「じゃあ、次私。タンドリーチキンのMセットで、オニポテとオレンジジュースをお願いします」
「タンドリーチキンのMセットお一つ、オニポテとオレンジジュースのセットでございますね」
「はい」
新の次に注文したのは萌花。
いつもお決まりのセットを頼む派で、新商品が気になるも、頼むのはついつい食べ慣れているものになりがち。
「
「うん! すみません、スモークサーモンバーガーでポテトと、ブラック珈琲のミルクティーで」
「……はい?」
「あっ、すみません、こいつのは……、スモークサーモンのMセットで、ポテトとカフェオレでお願いします」
「……あぁ、はい。スモークサーモンのMセットをお一つ、ポテトとお飲み物はホットのカフェオレで宜しいでしょうか?」
「
「氷入り!」
「アイスカフェオレでございますね?」
「すみません、ややこしくて」
「とんでもございません」
バイト代が入ったからと、今日は新の奢り。
朱里と萌花は新が選んだこのファストフード店でご馳走になる予定。
店員が笑顔でオーダーを入力し、厨房にオーダーを伝える。
新が支払いを済ませると、番号札が渡され、新たちは店内のイートインスペースへと移動する。
「朱里の天然は今日も絶好調だな」
「あ~っ、また馬鹿にした」
「そりゃするだろ。ブラックをミルクティーでなんて発想、お前くらいだっての」
「けど、こういう朱里はホント可愛いよね~」
「……まぁな」
朱里のど天然は今始まったことじゃない。
昔から突拍子もないことを口走るから、同級生の間では不思議ちゃん扱いされているが、本人は至って真面目に話しているし、周りを傷つけるような言動がないため、新と萌花は温かく見守っている。
七月二十日、外気温は三十五度を超え、今日も猛暑日。
梅雨が明けてから連日のように三十五度を超え、こうして涼を求めるように、どこか涼しい場所に立ち寄らなければ、熱中症になりそうだ。
店内奥のテーブル席に三人で座り、運ばれてきた飲み物の容器にストローをさして、まずは一口。
「生き返る~~」
「新の奢りだから、余計に美味しく感じるよね」
「うんうん、ゴチになります」
「味わって飲め~」
朱里と新は家が近所ということもあって、幼児期に公園デビューをする頃からの腐れ縁。
親同士が仲がよく、頻繁に両家を行き来して食事をする仲。
萌花は小学四年生の時に親の仕事の都合で引っ越してきて以来の仲。
人見知りをする萌花だが、朱里の超ど天然発言はさすがにヒットしたらしく、それからというもの唯一心を許している女の子だ。
朱里にいつも腰ぎんちゃくみたいについて回っている新と仲良くなるのも時間の問題だった。
こうして三人で寄り道して帰ることも多いし、新の親友の
朱里の天然発言を新が上手い具合に捌くから、周りからは『おしどり夫婦』なんて言われるほど。
「順位、どうだった?」
「俺はいつも通り」
「あたしも~。朱里は?」
「赤と緑の中間くらい」
「意味分かんね」
「赤と緑は補色だからってこと? それとも、混ぜると灰色だから、落ち込んでるってこと?」
「萌花、分析しなくていいって。どうせ、可もなく、不可もなくってことだろ」
「
「お前の頭ん中、俺じゃなきゃ理解できねーぞ」
「ムムムッ、また馬鹿にした」
終業式の今日は通知表の他に、一学期の成績(中間と期末の結果)が帯状の紙に全教科の順位が表示されているものが配布された。
それを鞄から取り出し、三人で見せ合う。
高校二年の夏。
そろそろ進路も決め、少しずつその目標に向かって準備をする時期なのだけれど。
ほんわか三人組は、まだ卒業後の自分を思い描くまではいっていない。
常に五本指に入るほどの実力者で、
新は運動神経が抜群で、あちこちの運動部から頻繁に声がかかる。
けれど、新は部活よりもバイトがしたいらしく、こうして学校帰りに寄り道する時以外は、毎日のようにバイトに明け暮れている。
「萌花、バイトいつから?」
「明日から」
「んじゃあ、慣れた頃に朱里と買い物に行くな」
「来なくていいよ~」
「萌花が頑張ってるところ、あたしも見たーい」
「……もうっ」
夏休みを利用して、スーパーの店内にあるパン屋でバイト予定の萌花。
そんな萌花を陣中見舞いするつもりなのだ。
「あたしもバイトしてみたい……」
「おばさんの許可下りねーだろ」
「……ん」
天然でおっちょこちょいの性格を心配し、朱里の両親はバイト許可を頑なに拒んでいる。
仕事で失敗するのは当然だろうが、他人様にご迷惑をお掛けするんじゃないかと気が気でないのだ。
冷房が効いている店内に軽快なBGMが流れ、お昼時ということもあり、他校の生徒も多く見受けられる。
朱里は自分の順位表を眺め、もう少し順位が上がれば、両親も許可してくれるかな? などと考えを巡らす。
四十人中、十七位。
赤点があるわけでもなく、平均点よりは上回っていて、クラスの順位も半分よりは上。
けれど、とりわけ得意な科目があるわけでもなく、苦手な科目があるわけでもない。
可もなく、不可もなく。
怒られるような順位でも点数でもないが、褒められることもない……それが、朱里の学力だ。
ごくごく普通の女の子――――超ど天然の性格を除いては。
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