第2話

コマロフを仲間に監視するように指示したヴェルホーヴェンスキーは、一緒にいた女性ルカレッリと一緒に仲間が集まる会議室に向かった。


彼のなかでは仲間の離反が始まるだろうという予想立てをしていた。コマロフが騒ぎ出したことで不安分子たちが騒ぎ出し、自分には向かってくることまで考えていた。


そして、会う予定をしていた中年男のマシスキーが彼のなかでは反抗する確率の高い仲間の一人であった。


ルカレッリがなにか飲み物を持ってくるかどうか聞いたが、彼はなくていいと言って飲み物なしで話し合いをすることにした。


「ヴェルホーヴェンスキーさん、あの人は、どうして私たちから離れたんですか?」


時間があるためか、ルカレッリがおずおずと聞いてきた。彼女が意外に質問してくることに驚きつつもヴェルホーヴェンスキーは答えた。


「やっていて違うと感じることがあるだろう。

それの積み重ねじゃないかな」


「それだけで」


「それだけでも理由になるもんだ。君は毎日ステーキだと思っていたものが食えると思っていたのに、チキンステーキになったり、トンテキになったりすると嫌になるだろう」


「それくらいは我慢できます」


「それをもっと悪くした感じかな。

彼は平和的解決を願っていたわけだ。戦う意思を

 言葉に託して、会話することでお互いの交流をはかろうとした。だか、相手はそんな都合よく話を聞くもんじゃない。僕たちが話し始めた瞬間に銃を持って撃つかもしれない。相手はそんなやつらばかりだ」


「怖くないですか」

ルカレッリの声が震えていた。


「怖くなくなるものさ。慣れればね。

慣れるまでは怖い。それ以上に怖い状況に何度も身を投じる必要があるよ」

ヴェルホーヴェンスキーが快活に言ったせいか、彼女の中で希望が芽生え始める。


「私でもいけるでしょうか」


「いけるよ。勇気が必要だ。

応援する。女性が立ち上がれば、弱者が立ち向かう象徴になる。それは希望だ」


「希望…」


「僕は虐げられた人間が立ち上がるのを助けるためにいるんだ。最終的に僕は何を言われても、目的が遂行されればそれで幸せだ。名声なんてなんの訳にも立たない。共同体から追放された人間の辛さに比べればそんなものへでもないよ」


ルカレッリの瞳がキラキラと輝いた。思わず、ヴェルホーヴェンスキーの手を取り、ぎゅっと小さな手で握ってしまった。


「わたしが、立ち上がります。そうすれば、私もヴェルホーヴェンスキーさんみたいに言われるようになる。あなた一人だけではありません。私もその中にいれてください」


ヴェルホーヴェンスキーは驚いた顔をしてから、ふっと微笑んで彼女に言った。


「君たちは言われないよ。僕しか言われないことになってるんだからね」


「あなただけではありません。だから、一人ではないですからね」


「ありがとう。君たちがいれば心強いな」


二人の間に和やかな雰囲気が醸し出されたとき、ノックオンが響いた。ヴェルホーヴェンスキーが返事をする。


「どうも、ヴェルさん」

40位の中年の男が入ってきた。マシスキーだ。恰幅が良く、肩幅が広く、顔が赤ら顔な小柄な男性だ。気さくな性格だが、ほとほと嫌になるほどケチなところがあり、それは家庭で発揮されているらしい。彼はヴェルホーヴェンスキーと昔からの知り合いであり、ルカレッリよりも彼との中は昔からできていた。


「やあ、待っていたよ」


マシスキーは、遅れたことを謝ることなくヴェルホーヴェンスキーの近くまで来ると、何のようで呼んだのかとぞんざいに聞いた。マシスキーのなかでありありとヴェルホーヴェンスキーに対する不信があることが見受けられた。


「君に質問がある。コマロフが監禁されていることは知っているだろう」


マシスキーは、驚くことなく肯定の返事をした。彼はコマロフと仲がよく、2人でよく酒を飲んだりしているのを店で見かけた。


「僕は彼を裏切り者だと認識して、ずっと監禁するつもりだ。もちろん人道的に食事は与えるよ。でもずっと檻の中にいさせるつもりだ」


マシスキーは、ぎゅうっと顔をしかめてから問いかけた。


「何がいいたいんですか?」


「僕は彼にあの薬を打とうと思ってる。彼もそうすれば根底から理解するはずだ」


あの薬と聞いた瞬間からマシスキーの目が大きく広がった。ヴェルホーヴェンスキーの顔を凝視する。


「人体実験ってか。やることがあまりにもいきなり唐突すぎるだろう」


「自ら志願する者たちがあの薬を使っていたけれど、彼に強制的に与えれば彼らの気持ちがわかるはずだ」


「オレは反対だ。あまりにも非人間的すぎる。あれでおかしくなったやつだってでただろう、あんたはまた犠牲を増やすのか。もっと冷静になるべきだ。何をそんなに焦る必要がある」


「緊急事態なんだから、焦るに決まっている

彼は僕たちにとっての裏切り者。密告して、僕たちの組織が壊滅した場合、それは全てアイツのせいで潰えたことになる。君は彼と仲がいいよな?僕は君もあいつと同じ側の人間ではないかと疑っている」

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激流葬 @acdc28882

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