エピローグ・友からの最初で最後のラブレター

 福岡国歴、235年……


 あの、ちちぷい島のバカンスから10年もの月日が流れた。


 アタシは見事にアラサー、つまり29歳になってる。


 職業は、もちろん……福岡国の魔王女を務めてる……うん。

 椿つばに、あおい、ミント、幻刃まほも、みんな立派なレディに成長してる。


 んまぁ、あれからは九州を狙う悪いやからや、宇宙から来た旧人類が、いきなり地球を奪い取ろうと戦争吹っ掛けるわ……

 ラーヴィが望んでいた力の眠る聖域に行ったり、散々なことがあったけれど……


 アタシたちは、みんな無事だ。ちゃんと生きてる。

 福岡の国も、ちゃんと平和だし、九州の皆も、幸せに過ごしている。


 っと、公務の途中……何故か思いに浸ってしまったわねぇ……ん?


「月美、入るぞ~~~?」


 この声は、ルミィアね。

 まぁ~た、仕事持ってきたのかしら~? んも、休みも欲しいわよ。


 ぁ、そっか。休みが欲しいって思ったから、バカンスの事が思い浮かんだんだ。


 あれから、バカンスどころか、本当に秒を削れないくらい、忙しかったもんねぇ……


「どうぞ~、次は何のお仕事?」


 アタシが少し面倒くさそうにつぶやくと、彼女は一通の手紙を差し出してくれた。


「ん? 手紙? 誰かしら?」


「さてな? ちちぷい島の郵便局から、こちらの世界に届けられたそうじゃぞ?」


 ……マジで? ナニソレ? なんでいきなり?


 ……差出人を見ると……ん? 異世界文字だからわかんない……


「これを使え、手紙と一緒に、異世界の言葉が読める、『異文化翻訳ライト』だそうじゃ……これの光を異文化の文字に当てると、儂たちの世界の言葉に訳されるそうじゃ……本当にオーバーテクノロジーすぎる……」


 ……秘密道具ってやつね? とりあえず、考えないようにしとこっと。


「そ、それじゃ早速……ぉぉ!」


 その、異文化翻訳ライトの光を、文字に当てると……こっちの世界の言葉に変わってる!


「すっご……本当に謎技術じゃぁぁ……」


 驚くルミィア。そうよねぇ……ホント、考えたら……ヤバイ技術よ?


 ん~っと、差出人は……


「トーム・ウィンガー……えええ! うっそ! トームなの!?」


「ん? 知り合いか?」


 アタシは首を縦に振る。ちちぷい島でガチ目にトラブった、勇者一行のリーダーだ。


 何故、突然? 彼から手紙が? ちちぷい島を通じて……


「と、とりあえず読むか……」


 アタシは封筒の封を切り、中の洋紙を取り出し、翻訳ライトの光を当てる。


「ん~、何々? 親愛なる福岡国、魔王女・夢崎月美様……お主宛てで間違いないようじゃな?」


 ルミィアの言葉に、アタシは頷き、内容を読むことにした。


□ ■ □ ■


 親愛なる福岡国、魔王女・夢崎月美様。

 私は……いいや、すまない。友人としてここは筆を取らせて欲しい。

 俺はトーム・ウィンガー。

 10年前、貴女たち一向に挑み、敗れ、その後仲直りをした、勇者一行のリーダーだ。


 あの夜の舞踏会での出来事は、今でも忘れてはいない。

 あの夜、言った通り……『あの想いは死ぬまで大事に心にしまっておく』を、今も大切にしている。


 元の世界に戻った俺たちは、7年をかけて、ようやく宇宙大魔王を討伐することができ、ドコサヘキサ界の地球を救うことに成功した。

 もちろん、全員生還している。

 あの日の夜の思い出が、俺たちが必ず使命を生きて成し遂げる力になった。


 改めて、心から感謝を申し上げます。


 世界を救った後は、大変だった。

 あらゆる場所で歓迎会だの、求愛を受けるだの……

 魔王はいなくなったが、今度は、国同士の付き合いがギスギスになりかねない状況にもなったりしてな。


 各地の王族から、貴族の称号を与えられそうだったが……


 俺が必要じゃない。勇者としての力を求めているのが、すぐわかった。


 だから、全部断ったんだ。


 俺たち5人は、それぞれの故郷を復興させて、のんびりと余生を過ごすことに決めたんだ。

 地位も権力も要らない。俺たちは、故郷が……仲間が大事だったからな。


 さらに……その……


 バルサ以外は、理想の女性と結ばれることができたんだ。

 俺も今、二児の父親として、復興させた故郷で静かに暮らしている。

 ミコスも一緒だ。可愛らしい女性と結ばれて、幸せそうに暮らしている。

 今年、ミコスも、女の子を授かり、故郷では大盛り上がりなんだ!

 と、言いながらも、俺の子供も、娘が2人なんだ。


 どうやら、魔王の影響で、女性の出生率が下がっていたらしく……

 これからは、俺たちの世界でも、女性が増えてくれるだろう。


 ヤーンは夢だったダンサーになってな。世界中の子供たちに、踊りで幸せを送っているんだ。

 王都のダンスパフォーマンスに誘われて見に行ったんだが、すごかった。

 感動で、全員が涙を流しながら、スタンディングオベーションってやつだ。

 奥さんもダンスが上手でな、とてもイキイキしていたぜ♪


 クンは、帝王ていおうとしてではなく、自らを『ドワーフ族』と、称して、人権闘争を打ち立てたんだ。

 ミントさんの言葉がヒントになり、文研を調べていると、ドワーフ族の書物が見つかり、正々堂々と世界中で、ドワーフの解放を求めていたんだ。

 世界中のドワーフが集まり、見事、ドワーフ族の人権を勝ち取り、今は人間族とも仲良く暮らせるようになったんだ。


 魔王討伐の功績もあったからかな。

 すると、ドワーフ族の女性と、見事ゴールイン☆ 輝いてたぜ~♪ クンの花婿姿。


 バルサは……


 バルサは、結局幻刃さん以外の人とは距離を置きたいらしい。

 一人、弓を極める為に、修行を続けていた。

 奴が編み出した、『心眼必中』の技には、とても助けられた。

 けれど、『彼女にはまだ届かない……』

っての一点張りだ……

 それでも、アイツは弓を極めたい一心なんだろう。


 届く手紙からも、

『穏やかな心で弓を極めんとするが……彼女にまた会いたいと思う……笑ってくれ、トーム』


 ……すまない、アイツ、彼女にゾッコンすぎてるな……

 あと、性格が激変して笑えるんだよ。


 とまぁ、俺たちは無事、今の生活を勝ち取れたよ。

 月美、ありがとう。そちらも無事……だよな?

 ちゃんと、元気で、いてくれてるよな?


 って、愚問だな。アンタたちなら、絶対大丈夫だな。


 それじゃ、達者でな……この手紙も、奇跡的に俺たちの世界に存在していた、願いをかなえる異次元装置を使って、ちちぷい島に送ったんだ。


 無事届いていてくれることを信じて……


 親友である、月美様……どうかいつまでもお幸せに……


 トーム・ウィンガー


□ ■ □ ■


 ……最後の方は、涙だったんやろうか?

 字が滲んだ後がある。けれど、彼らは無事、使命を果たして、そして……


「そっかぁ……よかったねぇ~」


 アタシはボロボロ泣きながら、手紙を読み終えた。

 ルミィアも、もらい泣きしてるし……ぁぅぁぅぅう!


「よがっだぁぁぁぁぁ! アイツら無事、幸せゲットしとるやぁん!」


「な、なんがぢらん知らないが! よがっだのぉおおお!」


 わんわん、アタシとルミィアは泣いて、喜んだ。

 ルミィア? アナタ、この人たちに会ってないのに……涙腺おかしいっしょ?


 あのバカンスでの出会いしか、つながりが無かったのにね……フフ♪


 無事、アナタの手紙、受け取ったわよ♪ トーム……そしてね?

 アタシたち、5人が今、幸せかどうか? フフ♪


 すると、アタシの部屋のドアにノックする音が聞こえた。


 そして♪ 来たわね♪ 気配でわかるもの♪


「月美、入るぞ? 今日の公務なんだが……」


「はぁ~い♡ サクサクこなすわよ♪ うふ♡」


 愛する人と、アタシも過ごしてるわよ♪


▽ ▲ ▽ ▼


 でも、これは一つのパラレルの結果であり……

 本編がこの未来に直結ではないみたい……


 アタシたちが選んだ無数の選択のうちの……一つの結末の未来なの。


 だから、カクヨムの皆様?


「これが正史ではなくてよ? うふふ♡」


 あくまで、番外編として、一つの未来の姿なのよ。


 さて、11年前のアタシたちよ……どんな選択をして、どんな未来に

 してくれるのかしらね?


 番外編はここで幕を閉じるわ……


 ここまでのお付き合い、ありがとうございます♪



 けれど、引き続き、「一万五千年後の福岡は案外平和です」 第4巻……

 「九州動乱編」から、アタシたちの物語が……始まるわ。


 そこで、アタシたちはどんな選択をするのか……お楽しみに☆

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