8月4日から8月5日へ

南国のオーロラとキャンプ場との別れ

 どれほどの時間が経ったのかは分からない。

 隣には、満足そうな顔のまま、大の字で横たわるミントが、肩で息をしていた。


「はぁ~~~♡ 大満足ぅぅう♡ はぁ~♡」


「こらこら、流石にその恰好ははしたないぞ……」


 だが、ミントの欲求は満たされたようで、安心した。

 彼女は、艶やかな表情を浮かべている。


 昨日しっかり休養できたおかげで、今回は萎えることなく、最後まで耐えきれた。


 椿つばの時は、さすがに終盤で萎えてしまって……

 彼女には申し訳ないな。


 ミントは深呼吸をしながらも、うっとりとしている。


「ミントが大満足なら、僕も嬉しいよ」


 そっと彼女を抱き寄せると、ミントはくすりと笑いながら――


「うん♡ ありがとう、ラーヴィ♪」


 そう言って、ミントは軽くキスをしてきた。

 僕は彼女の髪を優しく撫でながら、しばし余韻に浸っていた。


 少し落ち着いたら、皆の元に戻ろうか……


 そう思った、その瞬間――


 ……なんだ、これは!


 突然、滝のスクリーンに、鮮やかなオーロラのような輝きが映し出されたのだ……!


「ミ! ミント、あれ!」


「え! 嘘!? これってオーロラ! なんで南国で!?」


 その光は、まるで天の裂け目からこぼれ落ちた淡い光のヴェール。

 オーロラのような色合いとは異なるが、静かに燃えるような神秘の光景が、滝の水面に揺らめきながら、空気を染めていく。


 そして――滝が一瞬開けたと思うと、そのオーロラの正体は!


「まさか! Bogha月の gealai……だったとはな」


「何てこと! 奇跡が重なりすぎてない!?」


 二人で驚いた。


 淡く浮かび上がる、福岡国で言うなら、月の光で発生する虹、月虹げっこうだった。


 夜の闇に溶け込むような、儚くも確かな七色の弧が、滝の表に架かっていた。


 月の光だけで生まれる虹は、昼のそれとは違い、色彩が夢のように淡く、まるで精霊が描いた絵のようだ。


 開いた滝が閉ざされると、先ほどのようにオーロラの揺らめきに見える。


 滝のスクリーンを通すことで、そう見えるのだろう……


 奇跡のような光景に、現実と夢の境界が曖昧になっていく。


「……綺麗ね、ラーヴィ」


「ああ……子供の頃見た、オーロラとは違うが……格別だな」


 子供の頃……故郷の皆で見たことのあるオーロラは、緑色の帯が夜空に広がっていた。


 互いの記憶にあるオーロラとは違うけれど……これもまた、素晴らしい光景だった。


 ミントは嬉しそうに、もう一言付け加える。


「うふふ♪ あなたと私だけの思い出……できたわね。嬉しい♪」


「そうだな。これは、僕らだけの――記憶にしよう」


 寄り添いながら、二人で眺めた南国のオーロラは……

 きっと、お互い……生涯忘れることはないだろう。


□ ■ □ ■


 8月5日、火曜日の朝――


 今日を含めて、残りはあと3日なのよね……


 あの二人……ちゃんとかしら?

 ミントったら、スイッチ入っても……たまに不遇で、チャンス逃しちゃうしねぇ……


 3人とも、ラーヴィとミントのことを少し心配していたけれど……


 ……まぁ、大丈夫っしょ♪


 なんやかんや、あの2人が、一番付き合い長いし。


 さて、後片付けしなきゃねぇ~♪


 アタシはテントのジッパーを開けて、外に出ることにした。


・ ・ ・ ・


「ふぁぁ~~~~~ぁ♪ ん~~~~♪ とっても、空気が美味しっ♡」


 テントのジッパーを開けて外に出た瞬間、ひんやりとした朝の空気が、頬を優しく撫でていく。

 思わず深呼吸をすると、澄み渡った空気が、胸いっぱい、朝の匂いが広がった。


 まだ朝日は、地平の向こうで静かに息を潜めている。

 キャンプ場の水平線には、夜と朝の境界が淡く滲み、金と藍が溶け合うような光の帯が、ゆっくりと広がっていく。


 鳥たちが一羽、また一羽とさえずり始め、虫の羽音が草の間から微かに響く。

 風は優しく、まるで夜の名残を撫でるように吹き抜け、アタシの長い髪をそっと揺らしていく。


 そして……水平線から、黄金に輝く旭日が静かに姿を現したその瞬間、世界が目覚める音が、肌に、心に染み渡った。


 ――ああ、なんて美しいの。

 こんな夜明けの一日♪ また、楽しいことがあるハズにきまってるワ♪


 さて、顔でも洗おうかしら……あら? このマナの気配は……


 ミントのテントから……ラーヴィのマナも感じるわ……ふっふふふ♡


 よかったわ♪ ミント♪


 つい、にんまりしてしまったその時――

 隣のテントから、ジッパーが開く音が聞こえた。葵も目を覚ましたようね♪


「ぬぁ~~~あ♪ おはよ~、月美お姉ちゃん♪ 良く寝たばぁぁぁい♡」


「おはよう、葵♪ 見てん♪ あっち」


 その言葉に、葵はふと朝焼けの水平線に目を向けて――  パァっと、笑顔の華を咲かせた。


「すぅうううううっご! 綺麗! なんなん! 半端なかぁ~♪」


 ふふふ♪ その気持ち、すっごく分かるワ~~♪

 そして、葵もミントのテントの様子に気づいたみたいね……

 にっこりと、嬉しそうに微笑んだ。


「……にぃにと、ミント♪ 良かったね♪」


「そうね♪ それじゃあ、今度は――アナタの番よ? 葵♪ 応援してるから☆」


 アタシはそっと葵に近づいて、おでこをこつんと合わせる。


「このバカンスの思い出を♪ ちゃんと作ってね♪」


 この、愛おしい妹にも……彼との幸せな記憶が、心に残りますように。


 目の前の葵は、にっこりと目を細めて――


「うん……がんばる!」


 そんな愛らしい返事が、朝の光に包まれて、キラキラと響いた。


 すると、まほと椿咲のテントのジッパーが開いた。


 ミントとアイツ以外は起床完了ね♪ そして、二人ともミントのテントをみてにっこり微笑んでいる。


 さて、お片付けして、ホテルに戻らなきゃね♪


 今日はどんなことが起きるのか♪ 楽しみだわね♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る