異世界の戦士との和解後は、バカンスへリターン☆

「では、両者、和解ということでよろしいかな?」


 アタシは福岡国ふくおかこくの代表として、今回の騒動のケジメをつけるため、学園長様の同席のもと、ドコサヘキサ界の勇者と対峙していた。

 邪神が絡んでいたとはいえ、あれだけの騒動を巻き起こしたのだ。そう簡単には済まされないわよね?


「はい、学園長様。彼らも、ある意味では被害者です。何卒、ご温情ある処置をお願いいたします」


 アタシは畏まり、学園長様に深々と礼をする。

 慌てているのは、相手方の代表――勇者、トーム・ウィンガー。


「いや、ここまでのことをしでかしたんだ。何もないというのは、さすがに申し訳ない。何なりと処罰を受ける覚悟はある」


 ……元の性格は、かなり頑固で律儀だったのね。言動からは、ちょっと想像できなかったわ。


 すると、学園長様が瞳を細めてにっこりと微笑み、アタシとトームに語りかけてくださった。


「ん? 和解したのなら、それで構わない。こちらとしては、素晴らしいエンターテインメントをビーチに提供できたのだ。WIN-WINではないか♪ トーム殿も、気に病まず、滞在期間中はゆっくりと過ごされるとよかろう……そして」


 学園長様は、アタシに向かって、優雅に一礼してくださった。


「ちちぷい島に現れた邪神を、迅速に討伐していただき、心より感謝申し上げます。夢崎ゆめざきつぐ様」


「ちょ、学園長様ぁ~! お顔を、お上げくださいな」


 こちらこそ、こんな素敵な場所に招待してもらってるんだから、

 ? 今のアタシたちならね。


 再び顔を上げた学園長様は、満面の笑みを浮かべながら、アタシの手を取って握手してくださった。


「ぜひとも、残りの滞在期間を存分に楽しんでほしい。明日の夜には花火を打ち上げる予定だ。そして、福岡国の皆様最後の夜には、舞踏会を開こうと思う。よろしいかな?」


 は、花火大会に……ぶ、舞踏会ですって!? な、なんて豪華なサービスなのかしら……!


 でも、学園長様の瞳はキラキラと輝いていて、やる気満々。こうなったら……♪


「では、お言葉に甘えて、思いっきり楽しませていただきますね♪」


 彼女はにっこりウィンク。アタシも笑顔で応えるけど、トームはというと……


 ……ふむ、確か女性に免疫がなかったのよね……耳まで真っ赤にして……


「……この光景を見られただけで、俺はもう……」


 ぽろぽろと涙を流していた。

 そりゃ、アタシも自慢じゃないけどそこそこの美人だしね♪

 学園長様はその遥か上をいく超絶美女だもの。

 免疫がなければ、それだけで感動も倍増ってことなのかしら……ね?


* * * *


 学園長様の部屋を出たアタシとトーム。


「それじゃ、元気でね♪ まぁ、今後は世界が違うから、会うことはないでしょうけど」


 アタシはトームに手を差し出し、握手を求めた。


 一瞬、ビクッと体を震わせたけれど、トームは服の袖で手を拭いてから、アタシの手をしっかりと握り返してきた。


「……この経験を、元の世界でしっかり活かす。今回は本当にありがとう」


 その目には、しっかりと決意が宿っていた。うん、大丈夫そうね♪


 ……ただ……


「……免疫ないって言っても、無さすぎじゃない? 少しは女性との接点、なかったわけ?」


 アタシの手に触れているだけなのに、まるで赤鬼みたいに全身真っ赤になって、照れてるのが隠せてないわ……コイツ。



「お、俺たちの世界は、男が8割で、女性は2割しかいないんだ……だから、接点なんてほとんどない。しかも、女性の方が尊ばれていて、女性からつがいとして選ばれない限りは、一生独身か、同性婚なんてのも、ざらなんだ……」


 ……なるほど、割と深刻な事情があるみたいね。なら――!


「そんならさ? 本気で好きになった女性を惚れさせるしかないじゃん☆ アンタは、こ~んな綺麗で可愛い魔王女様のアタシと知り合えたんだし♪ 自信持ちなよ? アンタ、結構いい男よ♪ ルックスも良いんだし☆」


 アタシは彼の両手を取って、笑顔で応援する。


 彼の顔はまだ真っ赤だけど、両手をそっと離して――


「本当に感謝いたします。福岡国、魔王女……夢崎月美様。そのご厚意、必ずや我が世界を救い、最高の奥さんを娶ってみせます!」


「おっし! その意気だ♪ 頑張れ~♪ 勇者様☆」


 こうして、アタシたちは笑顔で別れた。


 もう、……


「そいや、また……ちちぷいのどこかで会えるかも?」


 そのときは、結婚したかどうか、報告が楽しみね♪ ふふふ♪


□ ■ □ ■


 わたくしとまほは、夜ご飯の食材を確保するため、キャンプ場の売店へと向かっていました。


 テントを設営しているのは、葵とミント。

 学園長様への報告と、敵対していたドコサヘキサ界の代表者との和解の場に赴いたのは、お姉様。

 水の確保とキャンプご飯の準備を担当されているのは、ラーヴィ様。


 それぞれが役割を分担しているからですわ♪


「キャンプ飯……何が食べられるの? もう、お腹ぺこぺこなんだけど……」


「まほ? まだ16時ですわよ? こちらのおやつを召し上がってくださいな」


 わたくしは、手にしていた『満腹種』をまほに手渡しました。

 福岡から持参した、おやつ用の兵糧食ですの♪


「はむ……はむ……味はともかく、ちょっと膨らんだかも?」


「兵糧食ですしね? でも、まほの飢餓状態に備えて準備しておいて正解でしたわ♪」


「ん~? 椿咲? 私にはいつも当たり強いんだから~」


「フフフ♪ だって、まほですもの♪ このくらいの付き合いは当然ですわ♪」


 わたくしたちはじゃれ合いながら、キャンプ場の売店に到着しました。


 とても賑わっていますわね♪ 皆さんの笑顔が、陽射しに照らされてキラキラと輝いていますわ♪


 キャンプ場のほぼ中央に建てられた木造の箱型建屋は、ログハウス風の外観で、自然と調和した温もりある佇まい。

 中に入ると、スーパーマーケットのように、地元の新鮮な野菜や果物、肉や魚介類、調味料や炭まで、キャンプ飯に必要な物がずらりと並んでいます。


 さらに、釣り道具やアウトドア用の遊具の貸し出しも充実していて、ハンモックやランタン、焚き火台など、アクティビティを楽しむための補助器具もレンタル可能で、まさにの頼れる拠点ですわ♪


 木の香りが漂う店内には、子どもたちの笑い声と、スタッフの元気な挨拶が響いていて――

 まるで、自然のテーマパークのような空間ですの♪


「キャハッ♪ ねぇねぇ、お嬢さんたち~♪ とれたて新鮮っ☆ ちちぷい島の食材で、キャンプご飯いかがですか~♪」


 わたくしたちに元気よく声をかけてくださったのは、ピンク色の美しいストレートヘアに、ぴょこんと揺れる猫耳が愛らしい、獣人族の女性でした。


 年上のように見えますけれど、透き通るような緑色の瞳にはあどけなさが残っていて、どこか親しみやすい雰囲気。

 エプロンの下には、白いタンクトップとミニスカートを合わせていて、動きやすさと可愛らしさを両立したスタイル。

 スラリとした体型に、元気いっぱいの笑顔――まさに、キャンプ場のアイドルですわ♪


 胸元の名札には、『猫耳マートから出向 ミク』と書かれていました。


「椿咲! あの店員さんの近くから、美味しい気配がするわ!」


「まほ? 謎の感覚を発動しないでくださいませ……って、まほ~~! わたくしの手を引っ張らないでぇ~!」


 ……もう、これは完全に暴食の巫女ですわよぉ!


「お二人とも、すっごく可愛いわね♪ キャハ☆ これ、キャンプ場近くの畑で採れた朝摘みの野菜と果物よ☆」


 ミクさんが、店内の食材を笑顔で見せてくださいました。

 確かに、どの食材もキラキラと輝いていて、とっても美味しそうですわ♪


 ええと、ラーヴィ様からいただいたメモには……


「椿咲……肉は必ず入れてね?」


 わたくしにピッタリとくっついて、まほがじっと耳元でささやきます……


「まほ? ちゃんとメモに書いてありますから、安心してくださいませ?」


「キャハ☆ 二人とも、すっごく仲良しなのね♪ あたしとお姉ちゃんみたい♪」


 この方にも、お姉さんがいらっしゃるのですね。きっと美人さんなのでしょうね♪


 ええと……牛肉10キログラム、豚肉10キログラム、鶏肉10キログラム、キャベツを4玉と――それから――


「……よく考えてみますと、この量! これ、わたくしたちだけで持ち帰れるかしら?」


 全部で何キログラムになるのでしょうか……少し、買い出しを引き受けたことを後悔し始めました。


「大丈夫よ、椿咲。ヤマネさんを憑依させれば、私、持てるわよ?」


 エッヘンと胸を張るまほ……んもう、調子に乗って♪


「それでは、まほ? 食べるからには、しっかり運んでくださいませね♪」


「まかせてね♪」


「キャハ☆ 2人共♪ 安心して☆ 宅配サービスあるから。後でお届けできるわよ♪」


 あらあら♪ そ、そんなサービスがありますのね♪


「ミクさん、それでは、宅配をお願いいたします♪ ご紹介、ありがとうございます♪」


「ううん♪ キャンプ~~~~☆ 楽しんでね☆ キャハ♪ アナタたち輝いてるぅ♪」


 輝いている……ですか♪ うふふ♪


 無事、食材は調達できましたし♪ 


「まほ? よかったですわね♪」


「ん~~、お腹空くのセーブできるのは、いいですね♪」


 わたくしとまほは、手ぶらでわたくしたちのスペースへ戻ります。


 さわやかな、キャンプ場の空気を浴びながら。

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