即滅邪神とキャンプの憩い

 福岡国ふくおかこくの勝利で盛り上がる、闘技場の片隅に居た我は、そっと気配を隠しながらその場を後にしようとしていた。


 ナンラという人の皮をかぶってはいるのだが――


 我は邪神。名は無いが、人々の心から生み出された存在……


 その根源は……


『なんでアイツだけモテるんだ! 俺のほうがルックス良いのに!』

『あの子、いつも先生に褒められてる……私のことなんて見てくれない』

『自分の作品が評価されないのにアイツの作品ばかり評価される!』

『あいつ、何もしてないのにフォロワー増えてる……俺は毎日投稿してるのに!』

『アイツ、たまたま良いタイミングでチャンス掴んだだけじゃん!』


 そんな人が生み出す、『嫉妬』だ……

 様々な世界には、嫉妬の無い場所はない……


 そして、ここ! 『ちちぷい島』は、絶好の食事場所だ。


 老若男女、異世界からホイホイと訪れる……そして、異世界が交わるこそ、互いの違いの差に必ず嫉妬が渦巻く。


 今回のように、嫉妬を増幅させ、良い具合に異世界の勇者一行の嫉妬を存分に頂けたように……


 ……できれば美少女がよかったんだがな……(´・ω・`)?


 それでも、邪神の間で噂になっている、『福岡国』の、女たちの嫉妬にありつけれた……!


 絶妙に美味であった!


 呪術師が勇者パーティーにいて、奏功した!


 だが、まだ足りぬ……啜り足りぬ!


 あの勇者たちが水であれば、彼女たちは……


 まさに甘露であった!


 特にあの、青髪の少女の嫉妬は、極上すぎた。


 あああ、どうすれば、またその機会を得られないだろうか? ふ~む……


「はぁ~い♪ そこのナンラ君だっけ?」


 む! 誰だ? あまり事を荒立てたくない……穏便に済ませねば。


「あ、え~と、私は戦闘は出来ませんから、降参します。それに、もう決着つきましたし」


 両手を上げて降参を示す。さて、どう油断させてくれよう……?


「あ~、いいのいいの。もう、演技は要らん」


 確か、この女は福岡国の第一魔王女の、夢崎ゆめざきつぐ……


 長い黒髪にクールビューティーな赤い瞳……

 イイ女だ……こやつの『他の娘の体型』に対する嫉妬心は、キャラメルのように甘味であった♡


 是が非でもまた、あの青髪の娘と共に味わいたい!


 む? すると、彼女は指をパチンと慣らすと、我と彼女を包むように結界が張られる。


 ……どういったことだろうか?


「さぁ~って♪ どこぞの邪神かしらないけど、舐めたマネしてくれたわね? それじゃ、サヨナラ」


 バレていた! 不味い! もしや、我を滅ぼそうと、ここに来たのか!?


 神殺しと名高いコイツラ! 今の我では敵わぬ!

 早く逃げねば――ぁ……白銀の狐娘が、弓を我に向けている!?


「……下衆が、皆のあおいに手をかけた罪は、死で償え!」


 狐娘が呟いたその瞬間、我のコアは容易く砕かれてしまい……あっけなく滅びた……


 静かに、誰にも知られず。


□ ■ □ ■


 はぁ~~~~あ、午前中はなんだかんだで忙しかったぁ~。


 闘技場で盛り上がる人たちに、祝杯やら記念撮影やらと振り回されて、大騒ぎのビーチからようやく解放されたのは、14時を過ぎたころだったわ。


 その間に、月美とまほろはサクッと邪神を討伐してきたみたいだし……

 ほんと、仕事早いわよねぇ。フフ♪


「ミント~、そっち持って~。テント立てられん立られないばい~!」


「あ、ごめんね、葵。よいしょっと♪」


 今、私たちは『ちちぷい島のキャンプ場』に来ていた。

 今夜はホテルじゃなくて、ここで寝泊まりするの♪


 楽しみだわぁ~♪ キャンプって、どんな感じなんだろ?


 とりあえず、私と葵はテントを張る場所に、グランドシートを広げていた。

 キャンプ場では基本的にどこに設営してもいいらしいけれど、私たちが選んだのはまさに絶好のロケーション。


 水はけの良い、舗装された土のフィールド。

 すぐそばには澄んだ水が流れる川があり、清涼感たっぷり♪


 その川の上流には、ちちぷい島の観光名所――『ちちぷい島ナイアガラの滝』と呼ばれる美しい滝があるそう。

 テントを張り終えたら、すぐにでも見に行きたいわ♪


 周囲は鮮やかな緑に囲まれていて、夏の日差しをやさしく遮る木々が、丁寧に手入れされている。

 害虫対策もばっちりで、快適に過ごせそう。


 私たちは会話を交えながら、グランドシートの四隅にペグを打ち込み、しっかりと固定していった。


「ペグって、打ち込むのに案外力いるんやね~♪」


 グランドシートが、風などで飛ばされないように、私も初めての作業だけど、心が弾むような気持ちで、ペグをトントンと打ち込んでいく。


「そうね~♪ ちょっとした運動になるわね。グランドシートはこれで良さそう?」


 固定具合と張り具合を確認して、葵とワンハンドハイタッチ♪

 にっこり笑い合うその瞬間が、なんだか嬉しい。


 続いて、テント設営のマニュアルを見ながら、作業は順調に進行中。


「ポールをこう立てて……フライシートを……おおっと! 風で飛ばされるぅぅ!」


「ん~? ロープをこう張って……あっ、ちぎれちゃった!? ああああ~!」


 ちょっとしたトラブルもあったけど、なんとか2人用サイズのテントを6棟、無事に設置完了♪


 テントの床には、ふかふかのラグを敷いて、クッション性もばっちり。

 そのまま横になっても快適♪ それに2人用のスペースだから、一人ならのびのび寝られそう♪


「「できた~♪」」


 私と葵は手を取り合い、飛び跳ねながら喜び合った。

 野営のときは、こんなに快適に眠れる場所を設営するなんて、なかなかできないものね。


「お、すごいな。立派なテントができてる。二人とも、お疲れ様」


「あっ、おかえり♪ ラーヴィ」


にぃに♪ 水くみ、お疲れ様♪」


 そこへ、水くみから戻ってきたラーヴィが現れた。

 彼は、50リットルは入りそうな巨大なボトルを背負っていた。


「ところで、すごいぞ、ミント! ここの川の水、そのまま飲めるんだ! すっごく美味しいよ!」


 彼は興奮気味に語る。楽しんでるのねぇ~♪ ふふ、可愛い♡


「なによ♪ はしゃいじゃって。でも、すごいわね♪ そのまま飲めるとか、なんて清らかなのかしら♪」


 すると、ラーヴィはボトルに汲んだ水を、用意していたコップに注ぎ、私と葵に手渡してくれた。


「ありがと、にぃに♪ ほんと! めっちゃ綺麗な水のマナ感じる~♪」


 葵は、水と相性がいいからね♪ テント張りで喉も乾いてたし、いただきます。


 ゴクッ♪ ゴキュッ! ゴキュッ!


「っぷはぁ! なにこれ、すっごく美味しい!」


「ほんと! なんやろ? ほんのり甘い♪ 天然水でそのまま飲めるって、ヤバすぎるやん♪」


 さっきまでテントを張っていた疲れも、一瞬で吹き飛んだ。

 癒しの成分でも入ってるのかしら?


「二人とも、夕飯まで時間あるし、川遊びでもしてみるかい? 僕はこのあと、キャンプ飯の準備をするつもりだけど」


 ん~? ラーヴィってば、このあとも作業するの?

 せっかく遊べるのに、ちょっと物足りないわね♪ ふふ~♡


「ね、葵?」


「ん♪ ミント♡」


 私と葵は、ラーヴィの腕を左右からしっかりと脇でホールドして、強制連行開始!


「「もちろん、アナタも一緒に遊びましょ♡」」


「よ、夜ご飯の準備とかはぁぁ!? ちょ、ちょっと待って~!」


 朝の騒動がまるで嘘みたいに、空気はすっかりバカンスモードに戻っていた。


 そう、楽しもう。今、この瞬間の、大切な日々を。


 この島で過ごす時間が、ずっと続けばいいのに――

 そんな願いが、胸の奥にふわりと灯った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る