第6話 渦渦

放課後の常盤中コート。昨日まで先輩たちが使っていた場所に、今日は俺たちだけが立っている。胸の奥がふわりと軽くなる。


仲の良い先輩なんてほとんどいなかった。正直、寂しさはない。むしろ――先輩たちは負けて当然、そんな冷めた感情すらあった。


それよりも、自由にコートを使えることの方が嬉しかった。広くて、風の匂いがよく通るコート。胸が高鳴る。その反面、少しだけ不安もある。


ほかの1年生たちも、はやる気持ちを抑えられない様子だ。「早く打ちてぇな」「もう準備運動いらなくね?」なんて声があちこちから飛び交う。ランニングや準備運動の途中も、ラケットを握りたくて仕方ないのが見て取れた。


だが、現実は甘くない。コートが自由になったところで、俺の実力が急に上がるわけじゃない。


フォームは定まらず、打点もバラバラ。わかすぎコートに通っていた日々も、今思えばほとんど“玉遊び”だった。


――やっぱり、基礎がなってない。


今日のメニューはボレー練習、面合わせ。陽翔が後衛位置からボールを出す。


「正面に来るボールをラケット面で受け止めて、返すだけだよ」


言葉は簡単だが、足運びとタイミングが命だ。右足を踏み出した流れで体重を乗せた状態でインパクト。うまくいけば、ボールの威力は倍になって返る。それがボレーの魅力だと、頭ではわかっている。


だが――俺のボレーは、毎回ストップボレー状態。体重を乗せるタイミングが合わず、面が負けてしまっている。勢いを殺し、ポトリと相手コートに落ちるだけ。

試合では一応ポイントにはなるだろう。しかし、技術的に成功しているとはいえない。


打つたびに、ラケットがぶれる感触が手に残る。陽翔は何も言わない。時折、軽くため息をつくだけ。


このままで、いいのかな――。


胸の奥で問いが浮かび、そのまま練習は続いていった。

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