セカンドエッジーソフトテニス✕下剋上ー

たかな@セカンドエッジ

第1話【プロローグ】

「マジでお前、使えねーな。もう、やめちまえよ」




その言葉を、僕は夢の中で何度も聞いた。


現実で誰かに言われたわけじゃない。

でも、ずっと自分にそう言ってる気がしてた。




小学生のとき、僕は野球部だった。

仲の良い友達が入るから自分もと入部したけど、守備は怖くて逃げ腰、バッティングは空振りばかり。

どれだけ練習しても、「自分の番」が来るのが嫌でしかたなかった。


特に忘れられないのは、モスカップ大会。

グローブをすり抜けて、転がっていく打球。

高く上がったフライが、自分の頭のすぐ横に落ちていく感覚。

足が動かなかった。声も出なかった。

僕のエラーで負けた、大事な試合。


みんなは悔しがっていた。泣いている仲間もいた。

でも、僕は泣けなかった。

「悔しい」とか「情けない」とか、そういう感情が湧いてこなかった。

ただ俯いてぼんやりとブルーシートを見つめていた。


本気で向き合っていなかったからだ。

自分のせいで負けたのに、どこか他人事のようだった。


あの時の夕方のグラウンド、遠巻きに見ていたコーチの顔。

今でも、ふとした拍子に思い出すことがある。


小学校を卒業して、仲間はみんな、当然のように中学でも野球部に入っていった。


僕は——逃げた。

坊主になるのが嫌だったなんて言い訳で、本当はただ、負けたくなかっただけ。

また同じ思いをするのが怖かった。自分のせいで負けるのが、怖かった。


だから、ソフトテニス部を選んだ。

誰もやったことがなくて、ゼロからのスタートなら、もしかしたら勝てるかもしれないと思った。


きっかけは、一冊の漫画。

『ベイビーステップ』。

頭を使って、コツコツ努力して、勝っていく。

そんな主人公がかっこよくて、真似して素振りを始めた。


おばさんのボロいラケットと、野球部時代の柔らかいボールで壁打ちをして、

誰にも見せない場所で、何度も何度もシャドースイングを繰り返した。


テニス部の初日、ラケットを握る手は汗で濡れていた。

不安と期待と、そして——もう負けたくない、という気持ち。


これは、僕の「もう一度勝つための物語」だ。

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