4話 また明日
バスに揺られる、乗客は俺と日坂朱音さん含め4人ほど、あと運転手さん。
「おんなじ時間だったんだね……」
照れながら笑う日坂さん、うーーん笑顔100点、いや120点!こんな子の隣に座ってていいのか俺、てか変なにおいしないかな?
「あ、あのねスーパー、今日セールなんだよ」
「そうなのか?」
「うん、お菓子とか買いだめに向いてるの」
この子お菓子想像してキャッキャしてる……純粋すぎる、一緒にいると汚れちゃうよ?大丈夫?俺死んだほうがいい?
「日坂さんはずっと亥紗羅に住んでるの?」
「朱音でいいよ、ずっと地元だよ」
よくない、女の子を名前で呼ぶハードル知らないの?
「そうか……で日坂さんって」
「むっ……」
「あ、朱音はさ」
うんうんと、名前で呼ばれたのを嬉しそうにうなずく、これはプラチナトロフィー並みの達成感……。
「よく素振りするのか?」
「へっ!?」
「いやーすごい剣さばきだったからさ」
棒だけど……。
「そ、そうだね、するよ?」
「じゃあアバ〇スト〇〇〇〇とか呼吸とかするの?」
「え?え?何?」
しないの?みんなするよ?でも女の子だし漫画あんま読まないかな?
「鍛えてるの?」
「そういうのじゃなくね、こうね……スカッとするっていうか」
以外だ、その華奢な体つきとかわいい顔からは想像のつかない理由だった。
「ふざけんなー!って叫びながらやるの!」
かわいいね、言えないけど。
「でも博夢みたいにすごいのはできないよ」
「俺は生粋の棒使いだからな」
「かっこいいね!」
冗談で言ったのにそんなことをいわれる、これはあれだ、年上のお姉さんに坊やかわいいねって言われる感じのやつだ、うん、変な意味じゃないぞ?だからとまれ俺の心臓、勘違いするな。
「博夢はどうして亥紗羅に来たの?」
不登校で追い出されたからと冗談を言っても仕方ない、あと面白くない、ここは素直に。
「父親の……専業主夫?的な?」
「え」
あ、間違えた。
「……お手伝い的なあれ?」
「そうそう、的な……」
ふー、朱音は機転がきく、一家に一台日坂朱音の世界も遠くないだろうな。
そこからは特に会話もない、もともと引きこもりの俺はこの程度の会話で疲れるもので。
「おーい」
いつの間にか寝ていたらしい……朱音の肩で。
「おはよう博夢」
「ご、ごめん!」
「いーよ別に……うん」
その間はなんでしょうか?というか心臓が持たない、当製品は刺激にとても弱いんです。
「寝心地よかった?ぐっすりだったよ?」
そりゃもう、いい匂いでしたし、なんかあったかいしって言うと多分キモイから。
「わかんない」
とごまかした、朱音はなんか笑っていた、その笑顔が120点だったのは言うまでもない。
***
スーパーで買い物を終え、近くのベンチでアイスを食べる、こういうとき陽キャとかならシェアできるやつを買うのだろう、もちろん俺と朱音は違う。
「アイスって夏よりも冬のほうが好きなんだよね」
「わかる、雪見大福とかね」
なんか分かられた、さすがだ。
朱音は長い髪が邪魔のようで、まとめて片側の肩から流している、そのしぐさが妙に刺さった。
「ん?食べたいの?」
「いや……」
俺がじっと見ていたのを不思議そうに思ったのか、首をかしげる朱音、田舎とは言えスーパーは人が多い、都会ほどではいけど……というか周りから見たら俺たち恋人に見えるのかな?って一度は思ってみたかった。
「博夢!」
「お、な、なんだ?」
朱音は何か思い切ったように俺の名前を呼ぶ、顔が赤くて今にでも告白されそうなほどの緊張感(絶対にない)。
「と、友達になって……」
と突然かわいらしいお願いをされる、友達……友達ね、友達!?
「だめ……?」
そんなかわいい目で見ないでほしい、心臓にわるいのだよ。
長らく友達なんて作ってない、中学から引きこもってるんだよ?それも異性の友達、男女の友情は成立するか?そんな話もみたことある、いやあれは今関係ないか。
「俺でいいのか……」
いやわかってる、別にそんなハードルの高いものじゃないことくらいわかってる、でもなんか罪悪感が、こんな子と俺が友達とか、なにこれ?ラブコメ?
「ひ、博夢じゃなきゃダメ」
「っ!?」
それはどういう……だいたいなんだその言い方、わざとか?わざとなのか?これ友達になった後に変な団体とかに。
「や、やっぱり私とは……いや?」
「なります、なります!!」
いっか、入らせられてもいいや!てかこれを断るほうが悪だろ、ドラ〇〇5で幼馴染以外を選ぶやつくらいありえん(怒られろ)。
「ほんと!?うれしぃ……」
引きこもり歴長いのかな?そんな感じの反応だ、それにしてはオーバーすぎるけど。
「平日とか、一人だから、うれしい」
なるほど…………それはわかる気がする。
起きる時間はもうすでに町がにぎわっている時間、両親は仕事、自分だけ別の時間を生きている、そんな感じ……俺みたいなやつはネトゲでも一期一会で、だれかと深くかかわろうとはしない。
そして気づいたら何も残っていない、真夜中に目覚めて都会の空を見上げる、きっと俺とは違って同級生のやつらは寝ている、あれほどさみしい時間を俺はしらない、そして気づくんだ。
なんだよ、やっぱり行きたいんじゃんかって。
「朱音、俺は長くはここにいないかもしれない」
「うん……」
「朱音が友達が作れるようになれるまでは残ってやるよ」
俺は主人公になれない、正義のヒーローでもない、だけどそのそばにちょっとでも登場するわき役くらいにはなれるはずだ。
「ありがとう博夢!」
両手で俺の右手を掴まれる、そんなに顔を近づけないでほしい、かわいすぎる、朱音はもう少し自分の可愛さに気づいてほしい。
***
夕日の田舎町を2人で歩く、あの後はあの川で素振りを一緒にして、俺の知る技(漫画知識)をいろいろ教えた、驚いたことに彼女は運動能力が高い、あと棒を振り回すさまが美しい。
「それじゃ、俺の家ここだから」
「うん……」
朱音はすこしさみしそうにうつむく、友達ってこういうことするの?知恵袋で質問しとこ。
「……また明日、な」
俺がそういうと朱音は顔をあげて水色の瞳を大きく開く。
「うん!待ってるよ!博夢」
そう言い朱音はそそくさと走っていった、明日の予定ができてしまった……楽しみという感情がわいてくるのがわかる。
さて、今夜の夕食、ご機嫌肉じゃがを作りますか。
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