3話 地元の三人登場

 主人公が憧れだった、それも初めて憧れたのは、小説に登場する女の子の主人公だったんだ。


 生徒会長で正義感が強くって、素行の悪い生徒を次々と注意していく女の子、でもそれを気に食わない人間に結局いじめられてしまう、そんな話だ。


 結末はしらない、俺はその先が読むのが怖かったのかもしれない。 


 俺が小学生の頃、それは六年生になってすぐに起こった。


 俺には幼馴染がいた、絵が上手いやつで、いつかイラストレーターになるとか言ってたっけ、休み時間とかもよくスケッチブックに書いていた。


 周りの人間はそれを馬鹿にするような発言をしていた、一人二人とそれは徐々に増えていく、俺はいじめられるのが怖くてやめろの三文字すらいえなかった、そして罵倒は嫌がらせに変わった、彼女のスケッチブックがトイレの便器に入れられたり、上履きに画鋲を入れられるのは日常茶飯事。


 俺は助けれなかった、ビビりでどうしようもなく弱虫だった、自覚したよ。


 俺は主人公でも正義のヒーローでもないんだって。


***


「ん……」


 朝日で目が覚めるなんて何年ぶりだろうか?久しぶりに嫌な夢を見た気がする、原因は日坂さんとの出来事だろうな、あの後彼女は泣いたことを何回も謝り、すぐに帰ってしまった。


「まぁ、俺にしてはよく話せてたほうだと思うよ」


 先生に花丸をもらえるくらいには頑張ったはず。


「さて、朝食作るか」


 布団をたたんで押し入れにしまい、着替えをすませて台所へ向かう、親父はまだ起きていない、昨日は帰ってきて俺特製の普通すぎからあげを召し上がっていただいた、今朝はフレンチトーストでも作ろうと思っている。


「さて……」


 食パンない!牛乳ない!トースターすらおいてなかったよ~♪


「だめだこりゃ……」


 親父は料理なんてできない、というか電子レンジを使えるようになるのも大変だったって母さんが言ってたな。


「仕方ない、あれを使うか」


 目の前に見えるのはみんな大好きな、最近では人気なユーチューバーが作って出してるやつ。


「いやー朝からこれはどうかなって思うよ俺も」


 独り言がはかどる、聞かれたら恥ずかしいけどついでちゃう、ネトゲやってるときにめっちゃ言ってたから癖になってんだろうな。


 お湯を沸かしカップにそそぐ、そして待つこと三分、完成したものを大きめの器に入れたタイミングで親父が起きる。


「博夢おはよう」

「はよ、飯できるよ」


 親父はサンキューと軽く言い席に座りテレビをつける。


「お前料理できるんだな、昨日のからあげはうまかった、母さんのにはかなわないけどな」

「いきなりプロとくらべないでくれる?俺かわいそう」


 親父ははははと笑う、朝っぱらから元気でうらやましい、仕事に行く前なのになんであんなに元気になれるのか。 


「でも愛情は感じたぜ」

「吐き気が、ちょっとトイレ行ってくるわ」

「お父さんも傷つくんだぞ」


 と冗談を交わしながら俺は器とはしを親父の前に置く。


「え、朝からラーメン?」

「おう」

「まじ?」

「まじ」


 エプロンを脱いで俺も席に着付き、麺をすする。


「まぁいいか、いただきます」


 ずるるる、ずるるると音が響く、うんこれこれ、やっぱり日〇が一番だよな。


「どう?」

「日〇が一番だよな~ずるるる」


 あぁこの人、やっぱおれの親父なんだな。


 ずるるる。


***


 今日は土曜だが仕事のある親父は出かけた、俺は回していた洗濯物を干す、ベランダなんてない、庭に置いてある物干し竿につるすだけ。


 今日の予定はない、というか毎日ない、ずっと夏休みです。


 部屋に戻りとりあえず終わっていない荷物の整理を……めんどくさいからやめて、とりあえず二度寝することにした。


「……やめとこ」


 また嫌な夢を見る気がしてやめた、いろいろなものをやめまくって、オールキャンセル界隈なんてものにならないようにしなくては。


「……行くか」


 昨日の川辺、あそこに日坂さんはいるだろうか、どうせ暇なら話してるだけでも時間はつぶせるだろう。


「いや、やめとこ」


 もはや特技になってるキャンセル、とりあえず風呂とかの掃除でもすることにした。


***


 十二時、腹が減る。


「やべ、昼飯…………」


 近くにコンビニなんてない、スーパーは車で十五分ほど、徒歩だと一時間以上は絶対かかるはず、え?またあの道歩くの?いやだよ絶対。


「でもおなかすいた、死んじゃう俺」


 やむをえまい……。


 昨日すっとばされたカバンを身に付けて、外に出る。


「何にするか、というか買いだめしなきゃな……」


 憂鬱だ、なぜこの世には転移魔法がない、誰か開発してください、いやまじで。


「ん?」


 目の前に集団が歩いてくる、若い……怖い!目を合わせたらーーーやられる!


「ん?おいあんた」

「な!なななんですか?」


 短い茶髪の男が俺を呼び止める、他の2人も俺のほうをじっと見つめる。


「あ、やっぱり昨日山道歩いてた……」

「あ、言われてみれば」


 隣の黒髪のポニテ少女が俺の顔をまじまじと見つめる、照れる。


「ねぇ君どこの子?みかけないけど」

「あぁ、俺は東京から来たんだ」


 あ、読めた、これはあれだ、おなじみのよくみるやつ。


「まじか!都会から来たのか!?」

「そうなの!?」

「都会から…………」


 3人は一瞬盛り上がるが、すぐに静まり。


「「みえない」」 


 ぐさっ……2度目の大ダメージ、自覚してるから言い返せない、安物の服を適当に来てるだけだだから。


「亥紗羅はなんもないぞ~」

「そうそうなんもない」


 笑い合いながらそんなことを言っている、なるほど、彼らは地元民か、ていうかさっきからもう一人の緑色のボブっ子、彼女はなぜか俺のこと睨んでいる。


「みなちゃん、都会の男は危険!襲われる!」

「え?そ、そうなの?」


 みなと呼ばれた子が俺から距離をとる、おいおい、そろそろHPなくなるぞ、これから一時間以上歩くんだぞ俺。


「ていうかどこかいくのか?」


 茶髪男が聞いてくる、俺は胸を押さえながら。


「スーパーだよ、駅前の」

「あっちのほうが近いぞ?」


 茶髪男は俺が行こうとしていたところとは別の道を指す、何言ってる、こっちには天下のグーグ◯マップがあるんだぜ?こっちのほうが十分くらい早い!


「いいんだよ、昨日と同じ道でいくからな」

「「え?」」


 3人が俺の言葉に驚く、何か変なこと言った?またなんかやっちゃいました?


「歩く気?」

「お前……男だな」

「変態」


 最後!!最後おかしかったぞ!!


「いや…………はっ!?」


 咄嗟に思いついた、おいおい人はすごいな!ってもんがあるじゃあないか!引きこもりすぎてそんな選択肢すら浮かばなかった!


「バスならもう10分で出るから……ふふ」

「歩くよりは早いぜ……くっ、腹いてぇ……」


 笑いやがって、いやそりゃ笑われるか、でも殴りたい。


「お前面白いな、俺は原田吉明はらだよしあき、こっちの2人はーー」

「よ、横原美波よこはらみなみです、よろしくお願いします」


 黒髪ポニテ少女こと横原さんが頭を深々と下げる、礼儀の正しい子だ、清楚系ってやつかも。


「私は高田恵利たかだえり、よろしく」


 緑髪ボブっ子こと高田さん、怖い人っと。


「なんかむかつく、よくわかんないけどむかつく!」


 怖いって……。


「佐竹博夢です、親父の家事手伝いのために来てます」


 自己紹介なんてこんなもんでいい、変にかざらず普通に……普通……。


「え?引っ越してきたとかじゃないの?学校は?もしかして社会人?」


 ああああああああ!!!忘れてた!!!俺不登校の引きこもりだ!


「あ、いや…………」


 俺がどもっていると原田さんの頭に電球マーク……が見えた気がする。


「まぁいいじゃんか、ほら俺らも行くぞ」

「あ、まってよ!」


 3人は歩き出す、原田さんは最後に親指を立てていた、かっこいい!ありがとう原田吉明!!


「さて」


 テンションのダイヤルを反時計回りに回し下げる、言われた方向に進むとバス停が見える、どうやら先客がいるようで。


「……」


 バス停には彼女、日坂朱音さんがいた、今日は黒いワンピースを着ている。


 本を読みながら時々バスが来てないか顔を向ける、一度、二度、三度と……そして四度目に見たあと、逆側にいる俺の存在に気づいた。


「ひ、博夢!?」


 相変わらずの呼びすて、だけどまた会えたのがーーーなぜか少しうれしかった。





 

 


 

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