1話 出会いは突然に

 田舎に来たことがあるかと言われたらイェスだ、小さいころに一度母方の実家に遊びに行ったことがある、山の上にある古い戸建ての家だった気がする、夏休みにいったからそこの地域でやってる花火大会に行った思い出もある。


 それで今こうして自分の足で山道を進み改めて思う。


「車ってすごい……」


 季節は九月の中旬、気温は二十七度ほど、そしてこの山道……さらに俺は引きこもりという、プロ音ゲーマーもびっくりな疲労パーフェクトコンボを果たしている、ずっと同じ景色の山道、懐かしいようで別にそうでもない感覚、あるよね。


 親父は車で通勤しているらしい、父は節約家で年収は平均くらいと前にいっていたので、多分〇〇ハツのミラ〇〇〇とかス〇〇のア〇〇とかそこらへんだろう。


「ん?」


 後ろから車の音、それもでかい音だ、これはあれだ……バスとかトラックだろう、こういう山道でガードレールにつっこんで事故にあって、あの世でもない世界で青春するみたいな漫画をみたことがある……あぁだから懐かしいのか(台無し)。


 通り過ぎたのは多分スクールバスだろう、窓を見ると物珍しそうに俺のことを数人が見ていた、そりゃ平日の昼間にこんな道を一人で死にそうに歩いてたら見るわな、ていうかいっそ乗せてくれ!


「バスに頼りやがって、俺はお前らとは違うんだぜ」


 あかん、どんどんダメな人間になっていく、乗っていた方々ごめんなさい。


 あと少しでつくはずなんだがこの変わらない景色を見ていると不安になるな。


「なんだ?」


 白いガードレールが途絶え下に降りれるくらいの舗装された階段がある、その下は川が流れている、驚いたのはそこに人が、それも同い年くらいの少女がいたことだ、腰まで伸びている赤い長髪、ひざまで丈がある白いワンピース、顔はよく見えない。


 地面から石を拾い川に向かって投げつけては満足げにうなずいている。


「……」


 もしここがギャルゲーとかエロゲーとかの世界なら、向こうが気づいて手を招いてくるか、俺がイノシシに襲われて転げ落ちたところを「大丈夫?」と、すこし頬を赤らめながら照れくさそうに声をかけてくるだろう。


 しかし残念、俺は主人公じゃない、これ以上何も起きないんだよ、第一話完!


「ていうか、今はエアコンちゃんに会いたい」


 そんなエロゲも悪くない、ほら擬人化とかあるじゃん、エアコン擬人化ジャンルも多分需要あると思うんだよ。


「こういうことばっか考えるの、本当にやばいオタクみたいになってる気がする」


 心の中では妄想やおしゃべりが達者、授業中は不審者が入ってくる妄想、ピアノの動画を見て大勢の前で自分が引いてる妄想、どれもみんな経験してるだろう。


 でもエアコンの擬人化はないわ、うん。


 そんなこんなで景色が変わり始める、疲労困憊の足も喜びをあげている、開けた場所(とはいっても周りは畑ばっかり)に出てようやく写真でみた父親の家が見えてくる。


「ふ、やりきったぜ俺」


 玄関までの足取りは軽い、翼が生えたくらい軽い!カバンからエアコン(家)のカギを取りだして扉を開ける、エアコン(家)の中に入ると、目の前にはメモ書きと、それを置くためだけに用意された小さいテーブルがあった。


 ーーお疲れ様、アイスが入ってるから食べてから洗濯を取り込んでくれ、あとご飯も作っといて、部屋はお前の名前が書いてある紙を張り付けてる戸のところだ。ーー


「親父……!女だったら惚れてるぞ」


 まぁそんなギャルゲーは嫌だけどね、とりあえずエアコンの電源を入れて棒アイスを食った俺は、洗濯を取り込みたたむ、エアコンの風は山道での疲労を回復させてくれる。


「人が生み出した最強の回復アイテム……」


 もうヒーラーはパーティにいらないな、今欲しいのは車だな、はやくダー〇神殿にいって車に転職してもらうか、いや酒場に行ったほうが早いかも。


「あ、酒場といえば」


 夕食も作らなきゃいけないのか、でも親父が帰ってくるのはだいたい二十時ごろって言ってたし、今は十五時……三時間半くらいは遊べるな、といってもPCもないし、据え置きゲームは持ってくるのめんどいし、携帯ゲーム機に至っては持ってすらない。


「スマホは念のためデータ容量のこしておきたいしな」


 自慢じゃないが俺は復活アイテムとか全体完全回復アイテムとかは最後まで使わない派だ、なんならラスボスでも使わない、現実にもそれは顕著に反映されている。


「しかし……」


 あの川の少女、妙に気になる、スクールバスが通ったのを見るに今は下校時間、バスの中のやつらは制服だったし(結構かわいい制服だった)。


「まさか俺と同じ引きこもり……ではないとしても、不登校なのか」


 川で遊んでる時点でゲーム三昧の俺とは違うのはたしか、でもなんか気になる。


「人は、慣れない土地にいくと変な行動に出るのかもな」


 エアコンの電源を切り靴を履く、体力は8割くらい回復したし、少し見に行ってみることにした、別に変な目的はないぞ。


 本当だよ?


***


 案の定川辺には彼女がいた、今度は座って川をただ眺めている、と思いきや。


「はぁあ!!」

「うわっ!!」


 いきなり大声をあげて長い木の棒で素振りをしだす、きれいに垂直に宙を斬り、腕を上げて真っ直ぐ縦に振り下ろす、十字斬りと言ったところか。


 な に し て ん の !?


 あんな華奢な体から繰り出される十字斬り(仮名)、そのギャップに動けずにいる俺、彼女はウキウキで木の棒を手でくるくると巧みに扱う。


 あぁ、わかるぞ少女……俺も小学生のときに長い木の棒を見つけては素振りをしまくっていた……逆手にもって例のあれを繰り出したり、2本持って若者に人気な喫茶店の名前に似てるあれも練習した。


「しかし……」


 見事な剣(ただの棒)筋……あれは相当長い間素振りをしている強者に違いない。

 

 どっかの漫画で言っていた、同じ力を持つもの同士は惹かれあうと、まさにこれのことか!!


「てえい!!」

「ぐわあああ」


 瞬間、俺の鞄が吹っ飛ばされた、俺のもとから離れた鞄はなんだかとっても嬉しそうに川辺のほうへ行く、お前……飛べたのか?


 これが俺と彼女の出会い、終点の亥紗羅町で始まる青春物語の一ページ目、この出会いがいつか俺の人生の大きなターニングポイントになるーーーー。


 とか言ってみる。









 



 






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