終点で始まる青春物語

青井サアノ

終点

 主人公に、正義のヒーローに憧れていた、ヒロインのピンチに駆けつけたり、悩みを解決したりーーでも俺にそんな資格はない、たった1人の女の子すら助けられなかったロクでなし、アニメとゲームに没頭する妄想しか取り柄のないダメ人間。


「次は亥紗羅いさら〜亥紗羅〜」


 アナウンサーの声が車両に響く。


 電車って思っていたより心地がいい、よく見る通勤ラッシュとは違う、今は平日の真っ昼間だから当たり前かもしれない、そんなあたりまえすら終点まで気付かなかったとは、我ながら引きこもりレベルが高い……。


「亥紗羅か……」


 親父は2年前に亥紗羅にある会社へ転勤になった、共働きの夫婦で、母さんは昔からの夢で教師をしており、今の学校が気に入っているため一緒にはいかなかったそうだ、不登校で毎日部屋で遊んでる俺を見かねたのか、親父の家事手伝いをしろと、交通費や生活費にしては多すぎるお金をもらい、いわれるがまま俺も亥紗羅に行くことになったのだ。


 


 窓から見えるのは退屈な田んぼやら畑やら、これだけ景色が変わらないのは逆に親近感がわく、毎日同じ部屋で同じネトゲのレベリングをしながら、だらだらとアニメをながら見して消化している毎日、そんな俺と似ている。


「いや、一緒にしちゃ失礼だろ」


 誰もいない車両で一人突っ込む。


 引きこもりってね、意外と独り言多いのんだよ(博夢調べ)。


「まもなく終点、亥紗羅~亥紗羅~」


 低い男性のアナウンサーの声が聞こえ、俺はキャリーケースの取っ手を掴み電車が止まるのを待つ、終点か……主人公の憧れもこの終点に置いてこう、俺にはもういらないものだ。


 しかしなんだろう、胸がざわつく、なんだろうこの気持ち……不安?高揚?期待?どれもしっくりこない。

 

 もう長いこと遠出なんてしてない、最後に行ったのは小学校の夏休みに家族と親戚でいった地元の海だったか、いや遠出ではないな……うん。


 電車が止まり扉が開く、電車から降りて吸う空気は新鮮というよりどこか懐かしい感じがする、というか田舎に来たらみんな(アニメとか漫画とか)そんなことを言ってる気がする。


「さて、親父の借りてる家は…………」


 母親から聞いた住所を調べる、そして俺は絶句した。


「……」


 徒歩二時間、バスの待ち時間一時間、俺の体力は久しぶりの外出によって一割程度。


「終点が始まりってどういうことだよ……」


 バスを待っている間することもないし仕方なく二時間歩くことにした、駅を出て広がる景色は静かで落ち着いていて、決して人がいないわけでもないのだが地元とは全然違う。


 さっきから胸がざわつく、知っている感情のはずなのにどうしても思い出せない。

 

 毎日毎日ゲームアニメ漫画三昧だったからだろう、それもこれから何日かはできなくなるわけだが。


「せめて今回のイベント武器は入手しときたっかたよなぁ」


 そんなことをつぶやいて俺は歩き出す……この気持ちの答えが待っているという期待を、少し抱きながら。


 






 

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