第1話 古びた空き家に吹いた風

それは、嵐の翌日のことだった。


リュミナは、いつものように一人で山道を歩いていた。

村の北のはずれにある、誰も近づかない小さな谷に、不思議なを感じた。


木々の隙間をかき分け、ぬかるんだ土を踏みしめて谷に下りたその時、彼女はそれを見つけた。


「……なんだろう、は…?」


木々の切れ間に、ぽつんと建っていたのは、見たこともない古びた建物だった。

壁は茶色く変色していて、屋根は傾き、窓の一部は割れていたが、それでもなお、ちょっと前まで人が住んでいたような雰囲気を残していた。


その建物は、石でもなければ、土でもない。

異国の遺跡でもなければ、帝都の建築物でもない、不思議な建造物。


リュミナは、ごく自然に、それが「別の世界からのもの」だと察した。


「……もしかして、これが、言い伝えの『風の神様の家』なのかも……?」


彼女はその建物の扉にそっと手をかけた。

――ギィィィ。

乾いた音とともに、扉がゆっくりと開く。


建物の中は、静かだった。

古びた畳、ところどころ障子が破れているふすま、ほこりの積もった窓ガラス。

けれど、それらすべてが、どこか感じる。

他に誰もいないはずなのに、まるで誰かに見られているような、不思議な感覚。


そして、奥の別の部屋に入ったとき。

リュミナの頬に、ひんやりとした風が触れた。


「……えっ?風?」


部屋の壁の高い場所に、大きな白い箱のようなものが取りつけられていた。

そこから、静かに冷たい風が吹き出している。

カラカラに乾いたこの山の中では味わえない、清らかな、心地良い風。


リュミナは、その場に立ち尽くした。

そして、ふいに、ぽつりと呟いた。


「……風さん、ありがとう……」


風は、リュミナの声に応えるかのように一瞬だけ強く吹いた。


その瞬間、リュミナは確信した。

これはただの建物じゃない。

この家は、きっと、なんだと。


リュミナはその日から、この空き家に通うようになった。

何も言わない家に語りかけ、風とこの家に守られながら昼寝をし、少しずつ家の中を探検

ときには誰にも言えないような秘密をそっと打ち明けながら、家との交流を深めていった。


家は何も話さない。けれど、確かに何かの『力」を持っている。でも、それはまだ分からない。


リュミナはまだ知らない。

この出会いが、世界を少しずつ変えていくことを。


それでもリュミナは、風に吹かれながら、そっと微笑んだ。

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