第12話:竜牙兵

 ――そういう感じのやつでごわす!?


 貴政は、思わず心の中でそんな風に叫んでしまっていた。


 何しろ、ここは異世界である。

 棍棒を手にした豚人間も、それに捕われたエルフの少女も、その他もろもろの化け物もいる。


 そういう世界だからこそ、いわゆる魔法的なもの、魔法使い的な職業もあるんじゃないかとは思っていた。でも、それはもっとファンシーなイメージというか、具体的には手や杖の先から光の球みたいものを生じさせる感じのやつであり、こんな化け物を召喚してくるとは夢にも思っていなかったのだ。


 とはいえ予想が外れたとても、咄嗟に対処できぬほどサツマ男児はヤワではない。


 貴政はさっと身構えた。

 地面の中から這い出てきたもの、それは陶器のような質感の骸骨の剣士そのものだった。そいつらの手には鋭い石製の剣と円形の盾が握られていて、その剣士たちは武器を振り上げながらカタカタと襲いかかって来る。


 今は〝呼吸〟は使えない。

 それならば……


「ふン! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 までである。


 最初の一体の剣撃をさっといなした貴政は、がら空きになった骸骨剣士の胸に強烈な〝ぶちかまし〟をお見舞いした。すると、そいつはパリィィィィンと砕け、衝撃で四肢がバラバラになる。


 思ったよりもかなり脆い!

 これなら力押しで行けそうだ!


 貴政は「ぬんっ!」と、腰を入れ直し、盾を構えてガードする2体目の骸骨剣士に狙いを定める。

 ちなみにサツマ男児の突進の威力はよくダンプカーに例えられる。

 ようするに、何を言いたいかといえば、そんな威力の攻撃を小型の盾で受け止めることはどう考えても不可能であり、よって衝突の瞬間にそいつが盾ごと木っ端微塵になったのは当然のことといえるのだった。


 すると、さすがに学習したのか、3体目と4体目は同時に切りかかって来た。

 しかし貴政は攻撃を避けず、双方の斬撃を張り手でパリィ。

 貴政は「南無!」と叫びながら、2体の頭をひっつかんだ。それを全力で衝突させると、頭部を粉砕された骸骨剣士はそのまま土へと還って行った。


 残る剣士はあと3体。

 この調子なら対処はたやすい。


 そんな風に思った矢先のこと、だが敵の動きに変化があった。

 なんと2体が剣と盾を捨て、左右から掴みかかってきたのである。


「むっ、しまったっ!」


 百戦錬磨の貴政も、さすがにこの動きは予想外。

 攻撃の要である腕を抑え込まれたことで張り手を封じられてしまう。


「ええい、貴様ら! 離さんかぁ!」


 振りほどこうともがく貴政だったが、骸骨剣士たちの腕力は思ったよりも強かった。このままでは残る1体にがら空きの胴を攻撃されてしまう!

 そう考える貴政だったが、正面にそれはいなかった。


「むっ、まさかっ!?」


 思った瞬間、後ろで鋭い悲鳴が上がる。 


 振り返ると、そこには骸骨剣士とそれに捕まったクゥがいた。

 そしてその脇には杖を構えた猫耳少女が得意げな顔で立っている。


「タカマサ!」


「クゥ! 大丈夫でごわすか!」


「クゥ、へいき! でも、タカマサがっ!」


 クゥは泣きそうになりながら潤んだ瞳で彼を見た。

 力士の少年は眉を吊り上げて猫耳少女をねめつける。


「人質とはなんと卑怯な真似を!」


「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。あたしは、この子を避難させただけよ」


「避難だと!?」


「そうよ、あんたから」


「おいどんはその子の敵ではない!」


 貴政は必死に訴えかけたが、ミュウと名乗った獣人娘は馬鹿にするようにフンと鼻を鳴らす。


「オークのくせに口達者ね。それで、この子をたぶらかしたわけ?」


「オークだと!? なんでごわすか、それは!?」


「白々しいこと言うんじゃないわよ! あー、もう調子狂うわねぇ!」


 猫耳少女は頭を抱え、長い髪の毛を掻きむしる。

 神経質な性格たちなのだろうか?


「まあ、いいわ。詠唱はすでに完了してるし、この子の救出も達成できた。竜牙兵トゥース・ウォリアーがこんなに早く倒されたのは流石に予想外だったけど、その間、あたしは呪文を唱えてとどめの準備をしてたのよ」


「タカマサ、にげて! まほう、くる!」


 クゥはじたばたともがきながら、ミュウが持つ杖の先端部分を指差した。

 なるほど、そこには何かがある。

 圧縮されてゴウゴウと唸る炎の球のようなもの。


「よくわからぬが、その炎を使いおいどんを殺るつもりのようでごわすなぁ」


「言い残すことは何かある? 最後に聞いてあげるけど」


「ではクゥ、昼は何がいい?」


「ちゃんこ! で、ごわす!」


「心得た」


 そのマイペースな会話内容にミュウはぽかんと口を開け、しかし侮辱と感じ取ったのか杖を握る手を固くした。


「あいにくだけど、お昼はないわ。作れないことはないけどね」


「何を作る気でごわそうか?」


「もちろん〝豚の丸焼き〟よっ!」


 猫耳少女は杖を頭上に掲げた。

 火球はみるみる巨大化し、洞窟内を照らし出す小さな太陽のようになる。


「全てを消し去り、焼き尽くせっ! 【獄炎大旋風ヘル・テンペスト】ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 直後、業火の塊が身動きの取れぬ貴政に放たれ、超高温の爆風が洞窟内に吹き荒れた。

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