俺のことが大好きな女の子は、俺が好きな戦国武将の娘さん!?しかも娘さんは溺愛を通り越し…
浦がるむ
第1話 はじまりはいつも突然
「殿っ!城の近くで怪しい者を捕らえましたっ!」
引き戸を開け放った男が叫んだ。
俺は繋がれた縄でぐいっと引っ張られ、男たちと一緒に広間に入る。
本丸であろう城の上層階にある大広間にて、俺は大勢の男の前で力任せに両膝を床に付かされる。左右に目を向けると時代劇でよく見たことのある服装をしている男が多数いる。
宴会なのだろうか、アルコールの匂いがする。勢いよく開けられた引き戸の音と男の大声で視線がこちらに集中する。
キツく締めすぎだろ…。
キツく身体を巻き付けられている縄が食い込んで両腕が痛む。乱暴に引っ張られながら城の上層階まで連れて行かれて混乱と疲弊している俺──
◇
「ごちそうさまでした!」
パン、と勢いよく合掌してから元気な声を出す。
「お粗末様でした」
向かいに座る祖母は淡々と答える。
「婆ちゃん、今日も美味かったよ〜」
「ありがとね。…ところで春喜よ、今年は宿題をキチンと計画的にやりなさいよ」
「…また余計な一言を」
立ち上がり、食べ終わった食器をシンクに入れた俺はため息をつく。
せっかく美味しい夕ご飯を食べた余韻に浸っていたのに…。
「婆ちゃん…夏休みは今日から始まったばかりだよ…」
「一ヶ月ちょっとなんてあっという間に終わるんだよ。今日だって朝からずっとゲームして宿題になんて手を付けてないでしょ」
「もちろん…触ってすら無いよ」
食器を水に浸しながら億劫な声を出す。
高校に入って初めての夏休み。今日は夏休み初日だというのに宿題の催促をされるとは。確かに中学三年間は毎年夏休みの最終日に焦って終わらせてはいたが。──いや、違うな。一年生の時は最終日に終わんなかったかっけ。
水道を止めて振り返り、眉をひん曲げている祖母に言い訳をする。
「だって今やってるゲーム面白くてさ〜。主人公は戦国時代にタイムスリップして、好きな戦国武将の家臣になって、軍師として活躍し成り上がるってやつでね〜」
「またあんたが好きそうな内容だこと。でもね、遊んでばかりだと…」
「大丈夫、大丈夫。俺も高校生になったからには、勉学の方も真面目にやるよ」
「あんたの勉強嫌いは知ってるから。いつも口だけは達者なんだから…。そういうところは──」
「あー!それ以上は言わないで!聞きたくない!」
声を出して両手で耳を塞ぐ。
「そういうところは」に続く言葉は予測できる。その「言葉」は俺がこの世で言われて一番嫌いな言葉だから全力で回避する。
やれやれと、婆ちゃんは湯呑みに手を伸ばして、はっとした顔になった。
「あっ…そうだ。梅ちゃんがあんたに用事があるからってさっき来たわよ」
「そうなの?なんで言ってくれなかったなの?」
「そう思ったんだけどね。けど梅ちゃんにあんたがゲームに夢中になってるって言ったら、じゃあ今はいいですって、直ぐに帰っちゃったのよ。何の用だったかわからないけど」
「へー。じゃあ明日聞いてみるよ」
「今すぐに聞いてきなさい。お隣さんなんだし」
「隣なんだから何時でもいいでしょ?急用ならまた来るだろうし」
そう言って呆れ顔の祖母を残したリビングを出る。階段で二階に上がり、自分の部屋の前で立ち止まる。
…そういや、借りてる本は読み終わったっけか。
回れ右して、向かいにある親父の部屋に入る。
「…失礼しまーすっ」
真っ暗な部屋に入り照明のスイッチをつけると、視界が良好になった。
部屋は八畳あるはずなのだが、部屋には本棚や物が沢山あり、とても狭く感じる。
父親は旅関連の記事を書いているライターであり、部屋には旅先で買ってきたであろう物や、書籍、写真などが部屋に数多くある。
旅が大好きな親父は、好きな事をして生きていたいと何度も言っていた。大好きな旅を仕事に出来て日々充実しているらしい。
そのため常日頃、
いくら仕事とはいえ、婆ちゃんもこれには不満だったみたいだ。「自分の子の行事くらい行きなさい」と、親父が怒られているのを見たことがある。けれども婆ちゃんも諦めたのだろうか。最近は親父をこの事で怒ることも無くなった。
「まあ、あの男に何言っても無駄さ」
外で鳴いているヒグラシの声に負けそうなくらいの声量でつぶやいて父親の顔を思い出し、すぐに頭から消す。
俺は父親が嫌いだ。だがしかし、そこは親子…なのだろう。部屋にある物は興味が湧く物ばかりで日々の暮らしに非日常感のあるもの──つまり刺激あるものが沢山ある。
趣味は似ているらしい。残念な事に。
いつからか俺は親父がいない時に部屋から書物などを持ち出して、読み耽るのが楽しみになっていた。親父も勝手に持ち出していいと言っていたし後ろめたさは無い。
ゲームを長時間しちゃうと目が疲れちゃうし····。何か面白いものはないかなぁ。
本読むのも目を使うが、光を浴びない分はゲームよりはいいだろうと、勝手な自論で面白い本はないかと物色を始める。
部屋に入ってすぐ目線を上下左右していると部屋に入ってすぐ右手にある作業机の上に、置いてある箱に目がとまる。
気になって机に近づくと⋯。
…こんな箱、この前入った時にあったっけ?
箱の表紙には「春日山城」の文字と城の絵が描いてある。
これは…プラモデルかな?
「春日山城」とは現代の新潟県上越市にあった城である。
新潟県が出身の人で歴史好きなら必ずと言っても良いほど知っている有名な武将がいた城だ。
──上杉謙信。
敵に塩を送るエピソードで有名な武将。歴史が昔から好きだったから小学校低学年から知っている武将…。
親父め。こんな物も持っていたのか。
好きな武将がいた城に興味が湧かないはずはなく、俺はプラモデルの箱を手に取りその場に座りこむ。
ワクワクしながら角が少し傷んでいるプラモデルの上箱を引き上げた。
開けた瞬間だった。
「──なっ!」
いきなり箱の中身から白い光が視界いっぱいに広がる──。
音もなく光だけが部屋中を明るく照らし、俺は眩しさのあまり右腕で目元を隠した。
反射で両目をキツく瞑り、目を閉じた状態で固まってしまった。
「なんだっ!?」
驚きのあまり声が上擦る。
体は硬直し、 身動きが取れない。
「…一体──」
ゆっくりと目を開けた時、視界に入ってきたのが朗らかな笑みを浮かべている地蔵で再度声をあげた。
「うわっ!!」
肩を弾ませて座ったまま後ずさる。
びっくりした…。
地蔵を見つめながら地面に手を置く。
ん、地面⋯?。
「なんで⋯俺は外にいるんだ…?」
畳の上にいたはずが、今は土の上だ。
地蔵から視線を離し、左右を見渡すと山々が連なっているのがわかる。日も落ちかけて辺りは暗くなっており、不気味さも出ている。
ここは…山奥?
親父の部屋にいたはずなのに。それがなぜ山にいる?
更に情報を得ようと膝を立て身体を捻り、後ろを見た。
すると、視界に入ったのは大きな建造物だった。
建造物───それは。
「なんで····」
声が震えた。
目の前にはついさっき箱の絵に描いてあった「春日山城」がそびえ立っている。
「え…ほん…もの?」
何で春日山城が···。
今ではもう無くなっていたはず…。
膝立ちで城から目が話せずに困惑していると──。
「っ!何者だ!?」
俺はびくっ、と身体を動かし、声が聞こえた方向を見る。
今度は何だ…?
視線の先、5、6メートルほど離れた場所で和装で帯刀した男が立っていた。
男は目を見開き、一歩後ずさった。
「貴様!?その格好は…もしや!?」
俺は膝立ちのまま呆けていると男は素早く近づき回り込んで、力ずくで地面に押さえ込んできた。
「痛っ!ちょ、ちょっと待って···」
うつ伏せに乱暴に伏せさせられ、混乱と痛みで弱々しい声を出した俺を無視し、男は抑えながら叫ぶ。
「おい!誰か!来てくれ!」
男が叫ぶと、近くにいたのだろうか…同じ格好の男が一人増援にきた。この男もまた帯刀している。
「どうした!?·····これは一体!?」
一瞬、俺を見て驚いたが、すぐに我に返り、持っていた縄を解いて俺の身体に巻きつける。
「どうして…」
「わからん…この格好は恐らく…」
「あ、ああ。あの男と同じで…」
「と、とにかく殿のところに連れていくか!?」
「そ、そうだな…。おい!立て!」
二人の会話をただ聞いていた俺は無理やり立たせられた。
男はこっちにこい、と言わんばかりに城の方へと引っ張っていく。
いったい…なんだってんだ。
自分と同じくらいに困惑している男二人に強引に城の中へと連れて行かれてしまう。
城に入り、縄で引きずられながら、必死に混乱した頭を落ち着かせようとしていた。
落ち着け…落ち着け──。
心の中で何回も唱える。
城の中は人が殆どいないらしい。障子の紙を貼った照明器具の
◇
──そして現在。
膝立ちした状態で春喜は視線を左右に振る。刀を携えた男が10人ほど座って居た。皆、
日は落ちかけているが、行灯もあり、部屋はまだ明るいと言える。
広間にいる男たちはこちらを見ると皆一様に不思議な顔になる。
ある者は驚き、ある者は困惑、またある者は興味…男たちはそんな表情だった。
「いや、その····怪しいというか····その····」
俺を拘束した男が言い淀む。
すると──。
「…は…ははっ⋯はははっ!!」
広間の真ん中に座っていた男が突然天井を仰ぎ、笑い出した。
つられて皆、笑っている男を見る。
俺も例に漏れず笑っている男に目をやる。
そこには日焼けした濃い顔の男が座っている。
座っているから正確にはわからないが、身長はあまり自分と変わらなそうだった。
顔立ちはイケメンの部類に入るのではないだろうか…。鼻筋がすっとして堀が深い。そしてファッションに疎い自分でもわかるくらい、他の男たちよりもいい材質の着物を身に着けている。
真ん中に座って居る。
材質がいい服。
「殿」と男が呼んでいた。
…この城の主?
そう考えれば自然と答えが出てきた。
ならば、もしや。
身体がぶるっと、震えた。
──この男が上杉謙信?
自身の体温が上がっているのがわかる。
この男が?小さい頃から好きだった武将?
現状を全く飲み込めていないし、縄で身体を巻き付けられているのにも関わらず、興奮を抑えきれない自分がいた。
…俺の目の前にいる!?あの上杉謙信が!?
これは夢なのか、現実なのかはわからない。でも身体が熱を帯びている。それくらい好きである人物。
「…あ、あのっ!」
あまりの興奮に言葉が詰まる。
そんな俺を見て、「殿」はまた笑う。
目があったところで興奮は最高潮になったのだが──。
その体に帯びた熱は次の瞬間には跡形もなく消え去った。
はっきりとした声で目の前にいる「殿」が言い放った。
「君……
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