第4話 隠し通すって、やっぱムリ?

あのイベントから数日――

俺は、クラマの活動に集中してるつもりでも、頭のどこかで“みぃちゃん”を思い浮かべてることに気づいた。


レッスンの休憩中も、本番前の楽屋でも、スマホが気になって仕方ない。

なんか、色々やべぇな……

こんなんじゃ、『男の魅力を磨く』どころか堕ちてく一方だわ。


「お?蓮がため息とは、珍し〜ですなぁ!」

「おい、舜!だる絡みやめろって!」


舜はこんなおちゃらけキャラだけど、実はめっちゃ努力家で真面目。

だからこそ、いじられても憎めないやつ。


「お前、みぃちゃんに惚れてから感情忙しすぎ!ハハハ!おもしれー!」

「……(ぐうの音も出ねぇ)」


図星すぎて、俺は黙り込んだ。

これが、“恋”ってことなんだな……


「舜。あんまり“恋する王子”をいじめんなよ?」

「司はいつも蓮に甘いよなぁ〜」

「司も俺のこと、いじってんじゃん!?」


司が助けてくれた!と思ったのに、2人共いじってきてる……完全に俺のガチ恋、ネタにされてる。


「クール系王子、蓮様!ちゃんとイメージ守れよな!」

「す、すんません……」

「俺はいじりがいあって、楽しいからいいけど!仕事さえちゃんとしてくれれば……だけど、な?」


う……ザクザク心に刺さるやつ、それ。

でも、実際そうなんだよな。

クライマーズの期待を裏切るようなことは、絶対ダメだ。


「ヘアメイク、入りまぁす♡」


このタイミングで、クラマ専属ヘアメイクさん登場。

俺、この人ちょっと苦手なんだよなぁ。

だって――


「蓮くんってば、最近肌ツヤが良いわぁ〜!スキンケア、変えたのかしらぁ?♡」

「いえ……特別なことは、何も……」

「それならアタシ、分かっちゃったわ♡」

「えっ!?(まさか……バレてる!?)」

「ンフフ……その反応、アタリねっ♡さぁ、今日もキラキラな王子様にしてあげるわよ〜!」


俺たちのヘアメイク担当「HANA(ハナ)」さんは、いわゆるオネエさん。

そしてこの鋭い勘の持ち主……恐るべし!!

悩み相談とか愚痴も聞いてくれる優しい人なんだけど、俺はいつもペース持ってかれる……


あ、スマホの通知。

『@miii_ren あなたをメンションしました

ロック画面は普通。開いたら、れん様♡

今日も目の保養、感謝いたします!!

(写真)』


ぐわぁぁぁぁぁ〜〜!!!!

なんてこった……みぃちゃんのスマホのホーム画面が、俺の写真だとぉ!?!?


――ポトッ


「あ、やべ」

「おいおい〜やっぱり、みぃちゃんのSNSチェックしてんじゃーん!」


驚き&嬉しい(?)が溢れて、スマホをつい落としちまった。

……しかも画面、舜に見られたぁぁぁ(絶望)


「……舜、これガチで言うなよ?(眼力)」

「わかってんよ!」


「蓮くん?あんまり暴れないでくれるかしら?」

「ですよね……気をつけます」


どうやら、これはHANAさんにもバレたやつだ。

“恋心”を隠し通す――俺にはムリそうです。



――OL 古田 いちか、お昼休憩中。


あれ、古参のオタ仲間からメッセージ来てる。

なんだろ?グッズ交換の話かな?


『みぃ!れん様に認知されてるってガチ!?』


え!?多分、勘違いだよ……ね?

この前のだって、たまたまだよきっと……


『他のれん様推しから聞いたんだけど、お話し会のとき名前呼ばれてたんだって?

みぃ最古参だし、認知されててもおかしくないよ!♡』


うーん……そう、なのかな……??

だとしたら、やばい……震えるくらい嬉しい。

でも、別に私、認知してほしいとかそんなの無いし、応援したいだけなんだよね。


いやいやいや!!ちょっと待って!?

『応援したいだけ』とか冷静ぶってるけど、認知されてるとか、夢でも嬉しいが!?!?


次のイベとかライブとか……どんな顔して行ったらいいの!?

やばい。動悸がして、苦しくなってきた。

あの、れん様が……私を知ってる??


――グシャッ!


あ!!思わず飲むヨーグルトのパック、握りつぶしちゃった……


一生、推しに名前も顔も知られない“報われない地味オタ”でいいと思ってたのに。

どうしよう……私、どんどん欲張りになっちゃうよ。


「もっと、れん様のこと……知りたいな」


ふと気がついたら、声に出てた。

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